【プロローグ】 俺の妹は引きこもり
◇定家牽牛
「ただいまー」
玄関のドアを開けながら間延びした声で帰宅を告げる。
学校から自宅に帰ると、まず最初に洗面所で手洗いうがいを済ませた。
俺の名前は定家牽牛(さだいえけんご)。
都内の学校に通う高校三年生だ。
自分に関しては特に語ることはない。至って普通。
一般的な男子高校生だと思っている。
成績も特別に良いわけでもないし、部活動に打ち込んでいるわけでもない。
将来の夢も現段階では特にないし、進路だってまだ漠然としか考えていない。
「こんばんはー、宅配便でーす!」
洗面所から出て来ると、来客を告げるチャイムと共に、威勢のいい声が聞こえてきた。
「あ、はーい」
それを聞いて、そそくさと小走りで玄関へと向かって行く。
「こちら、定家様のご自宅で間違いないでしょうか?」
「はい、うちが定家です」
「Konozamaさんからお荷物です。
サインか判子を頂けますか?」
「はい。じゃあ、サインでお願いします」
荷物を受け取ると、伝票に配達員から渡されたボールペンでサインをする。
「では、確かにお届けいたしました!」
配達員は伝票のサインを確認すると、元気ハツラツといったキビキビとした態度で去って行った。いつも思うが、彼らはいつもエネルギッシュだ。見ていて気持ちがいい。
「Konozamaから、ってことは――」
配達員を見送ると、荷物に記載されていた宛名に目を通す。
この家でこの通販サイトを使う人間は、俺ともう一人しかいない。
俺自身はここ数日は利用してないので、この荷物の主は必然的に絞られるわけだ。
「カズラ、か」
――定家葛(さだいえかずら)、俺の妹。
さっきも言ったように、俺については特に話すようなことはない。
それでも自分について、何か説明をしなければいけないならば、俺は妹について話さなければならないだろう。
◇俺の妹はひきこもり
カズラは一歳年下の妹だ。
平々凡々な兄とは違い、昔から学校の成績が良く俺としては自慢の妹だった。
現在は都内でも有数の進学校、久遠寺大学付属高等学校の生徒でもある。
入学してから行われた全国模試では、なんと全国一位まで取ったという。
しかし今、妹は学校へは登校していない。
加えて言うならば、約一年ほどこの家から出ていない。
カズラが学校に行かなくなったのは去年のことだ。原因はクラスでのイジメだった。
俗に言うひきこもり、不登校と呼ばれるものに妹は当てはまるのだろう。
今のカズラにとっては、この家の中が世界の全てなのかもしれない。
だから欲しいものがあれば当然、通販に頼ることになる。
荷物と通学鞄を持つと、階段を登っていく。
自分の部屋に行くついでに、この荷物は妹の部屋まで届けなければならない。
カズラは食事も部屋の中で取るし、そもそも入浴やトイレなど必要最低限の機会しか部屋の外に出ないからだ。
階段を登ると、妹の部屋が見えてくる。俺の部屋はその隣だ。
「カズラ、荷物届いてたぞ」
部屋の前に着くと、俺は軽くドアをノックして用件を伝える。
「入るぞ」
そして返事を待つことなく、ドアを開いて部屋の中に踏み込むのだった。
◇定家牽牛
「ただいまー」
玄関のドアを開けながら間延びした声で帰宅を告げる。
学校から自宅に帰ると、まず最初に洗面所で手洗いうがいを済ませた。
俺の名前は定家牽牛(さだいえけんご)。
都内の学校に通う高校三年生だ。
自分に関しては特に語ることはない。至って普通。
一般的な男子高校生だと思っている。
成績も特別に良いわけでもないし、部活動に打ち込んでいるわけでもない。
将来の夢も現段階では特にないし、進路だってまだ漠然としか考えていない。
「こんばんはー、宅配便でーす!」
洗面所から出て来ると、来客を告げるチャイムと共に、威勢のいい声が聞こえてきた。
「あ、はーい」
それを聞いて、そそくさと小走りで玄関へと向かって行く。
「こちら、定家様のご自宅で間違いないでしょうか?」
「はい、うちが定家です」
「Konozamaさんからお荷物です。
サインか判子を頂けますか?」
「はい。じゃあ、サインでお願いします」
荷物を受け取ると、伝票に配達員から渡されたボールペンでサインをする。
「では、確かにお届けいたしました!」
配達員は伝票のサインを確認すると、元気ハツラツといったキビキビとした態度で去って行った。いつも思うが、彼らはいつもエネルギッシュだ。見ていて気持ちがいい。
「Konozamaから、ってことは――」
配達員を見送ると、荷物に記載されていた宛名に目を通す。
この家でこの通販サイトを使う人間は、俺ともう一人しかいない。
俺自身はここ数日は利用してないので、この荷物の主は必然的に絞られるわけだ。
「カズラ、か」
――定家葛(さだいえかずら)、俺の妹。
さっきも言ったように、俺については特に話すようなことはない。
それでも自分について、何か説明をしなければいけないならば、俺は妹について話さなければならないだろう。
◇俺の妹はひきこもり
カズラは一歳年下の妹だ。
平々凡々な兄とは違い、昔から学校の成績が良く俺としては自慢の妹だった。
現在は都内でも有数の進学校、久遠寺大学付属高等学校の生徒でもある。
入学してから行われた全国模試では、なんと全国一位まで取ったという。
しかし今、妹は学校へは登校していない。
加えて言うならば、約一年ほどこの家から出ていない。
カズラが学校に行かなくなったのは去年のことだ。原因はクラスでのイジメだった。
俗に言うひきこもり、不登校と呼ばれるものに妹は当てはまるのだろう。
今のカズラにとっては、この家の中が世界の全てなのかもしれない。
だから欲しいものがあれば当然、通販に頼ることになる。
荷物と通学鞄を持つと、階段を登っていく。
自分の部屋に行くついでに、この荷物は妹の部屋まで届けなければならない。
カズラは食事も部屋の中で取るし、そもそも入浴やトイレなど必要最低限の機会しか部屋の外に出ないからだ。
階段を登ると、妹の部屋が見えてくる。俺の部屋はその隣だ。
「カズラ、荷物届いてたぞ」
部屋の前に着くと、俺は軽くドアをノックして用件を伝える。
「入るぞ」
そして返事を待つことなく、ドアを開いて部屋の中に踏み込むのだった。