見える、見えない

こわごわ目を開けてみると、父は拳を振りあげたまま固まっている。
後ろに立ったそれが、父の腕をひょいっと掴んでニヤニヤと笑っていた。

「気が削がれた!」

振り払うかのように父が拳を下ろし、それも手を離す。
父は盛んにあたまから煙を吐きながら、床が抜けそうなほどどすどすと音を立てて僕の部屋から出ていった。

「たすかっ、た……」

腰が抜けてその場にぺたりと座り込む。
まだ身体の震えは止まらない。

――そんなとき。

不意に、顔を撫でられた気がした。
そろそろと視線を上げた先に見えるのは至近距離のそれの顔。
レンズ越しに真っ黒な目と視線があい、それはにーぃっと真っ赤な唇を吊り上げた。

「お前、見えているな」

きょときょとと視線がせわしなく動く。
答えられない僕にそれは、まるで鈴を転がすような声で可笑しそうに笑った。