見える、見えない

だから僕は自分のできる範囲で、それのせいで父の怒りに触れそうな使用人たちに、助け船を出すようにしている。



今日もどすどすと乱雑な足音が、部屋で本を読んでいる僕へと近づいてくる。

「貴様、士官学校へは行かず、帝大に入るとはどういうことだ!?」

バン!と勢いよくふすまを開けた父は間髪入れず、僕の胸ぐらを掴んだ。

「……申し訳ございません」

せっかく高等学校に入ったというのに、帝大に入らず軍人になる阿呆はそうそういない。
けれど父はさっぱり、理解してくれなかった。

「けれど僕は……」

「口答えするなっ!」

父が拳を振りあげ、腕で顔を庇う。
が、いつまでたってもいつものような衝撃はない。

「……?」