女中はすぐに、菓子屋に向かって一目散に駆けていった。

はぁっ、と短くため息をついて辺りを見渡す。
が、それの姿はない。

「もうちょっと考えて悪戯してくれないかな……」

まんじゅうが消えたのはそれのせいだ。
少し前、それがつまみ食いをしている現場を僕は目撃してしまった。
だから父に見つからないうちに、女中に助け船を出したというわけだ。

それは今回だけではなく、お菓子をつまみ食いしたり、物を隠したり。

――父の大事にしている盆栽の松を丸裸にしてしまったり。
いまだに飾ってある先祖代々伝来の鎧甲を奇天烈に組み立てたり。

その度に父は燃えさかる石炭のように真っ赤になって怒り、犯人がわからずにとうとう陸蒸気のようにポーッと煙を吐き出す。

とにかく、それの悪戯に迷惑している……と言いたいところだが、実は密かな楽しみだったりもする。
それがやっていることは、幼い頃に僕がやってみたかったことだ。
父に激しく叱責されることなく、そんなことをやっているそれが羨ましい。