外の人々は自由を謳歌している。
僕もこんな家など捨て、外に出ればいい。

わかっているけれど、勇気のない僕にはそれができなかった。



それからもそれは家の中をうろうろしていた。
けれどどうも、僕以外の人間には見えていないらしい。

「どうした?」

お勝手では女中が、怖い顔で皿の上のまんじゅうを睨んでいる。

「坊ちゃん!」

慌ててなんでもないような顔をしているが、僕はなんで、彼女が困っているのか知っていた。

「なにかあったのか」
「その、あの……」

女中の視線がせわしなく動く。
きっと汗もびっしょり掻いていることだろう。

「僕は父のように怒鳴ったりしない。
なにがあったのか言いなさい、場合によっては力になるから」

「その……」