見える、見えない

月明かりが照らす、満開の桜の下、それが笑って手を差し出す。

「なにをやっている!?」

異常に気づいたのか、いつの間にか両親や使用人たちが集まっていた。

「父上。
母上。
いままでお世話になりました。
僕は――自由になります」

「そんなこと、許すわけがないだろう!」

父が顔を火のように真っ赤にして怒鳴りながら、僕に近づいてくる。

「さようなら、父上」

そんな父にかまわず、それの手の上に僕の手をのせた。
途端に父が、皆の姿が掻き消える。

「本当によかったのかえ」

「なにをいまさら」

それに手を取られ、桜の杜を進んでいく。

それが僕にかけた呪いは、僕自身の心だった。