見える、見えない

食事は日に二度届けられるが、世話をしてくれる人間がいないので上手く食べられない。
そのうち面倒になってほとんど食べなくなった。

じっと床の上に転がり、丸くなって過ごす毎日。
きっといまの僕は死んでいるのと変わりないだろう。

「そんなことをして愉しいのかえ」

それの声を聞くのはあの日、僕が視力を失った日以来だった。

「……愉しくない」

「なら、なんでそんなことをしているのかえ」

ころころと可笑しそうにそれが笑う。

「……僕にはなにもできないから」

「本当かえ」

「煩い!」

がばりと起き上がり、それの声がする方向へ顔を向けた。

「君が僕の視力を奪ったりするからだろう!?
もうこれでは好きな本も読めぬ。
小説だって……」