僕がそれ、に気づいたのは、松の内も明けようかという頃だった。

……新しい女中なのかな。

年の頃は僕より少し上くらいのそれ、は忙しく立ち働く人たちの中で、所在なさげにぼぅっと立っていった。
だから、入ったばかりでまだ右も左もわからない女中だと思ったのだ。

……あんなことをしていれば、父上に怒鳴られるのに。

坪庭を挟んで向こう、眼鏡のレンズ越しにそれを眺めながら気の毒になってくる。

僕の家は御維新の前は武家で、時代が変わったいまでも父はそれを誇りに思っていた。
いつまでも武士気分が抜けない父は、恐ろしく厳格だ。
小さなことでも気に入らないと怒鳴り散らし、使用人は長く続かない。

だから、知らないそれがいても僕は、新しい女中が入ったのだとしか思わなかったのだ。

「僕も、人のことは言えないのだけれど」

どすどすと乱暴な足を音が近づいてきて、読んでいた本を閉じる。
バン!と勢いよくふすまが開き、父が姿を現した。