「極楽……いぶかしく……?」

 ——極楽いぶかしくは、宇治の御寺をうやまへ。
 それはホームページに入ると、一番最初に出てきた言葉だった。

(どういう意味なんだろう?)

 そんな風に思い、再び検索をかけようとした、その時だった。

「あぶねっ!」

 そんな声とともに、キキキッ……! と、ブレーキを力一杯かける音が美月のすぐそばで聞こえた。その声と音に驚きを隠せず、美月は思わずびくりと肩を揺らしてその場に立ち止まった。
 それは、ちょうど曲がり角を曲がった瞬間に起こった出来事で、正面から向かってきた自転車の前輪が美月の正面に切り込むように向かって止まっていた。

「はぁっ……」

 美月は一瞬の出来事に驚きながらも、ぶつかりそうになっていたお腹を両手で押さえながら、瞼をぎゅっと閉じていた。

「なんだ、お前かよ」

 その”お前かよ”の言葉に、美月は恐る恐る瞼を押し上げた。すると、ちょうど美月の正面には自転車のハンドルに両肘を乗せて頭をしなだれている男子の姿があった。
 着ている制服が美月と同じ。それもそのはずだ。

「歩きスマホとかしてんなよ……転校生」

 美月と同じクラスメイトの染野(そめの)星夜(せいや)だった。星夜は今朝、美月が葵乃達に取り囲まれていた時、担任が呼んでいると知らせたあの男子だ。

「ご、ごめん……」

 思わずこぼれ出た言葉に、星夜は再びため息を漏らした。そして、自転車を少しバックさせ、美月から距離を取る。そんな時にふと視線を逸らした星夜がツン、と人差し指を美月の足元に向けて突き出した。

「スマホ落ちてるけど、大丈夫なんか?」
「あっ……ああ、うん。大丈——」

 美月がスマホをかがみ取ると、画面が割れている。すかさずホームボタンを押したが、画面は真っ暗のまま、いつもの待ち受け画面を表示する事はなかった。電源ボタンを押してみても、スマホはうんともすんともいわない。

「マジかよ……」

 星夜は美月のスマホを覗き見て、うなだれた。

「気にしないで。歩きスマホをしてた私がいけなかったんだし」

 星夜は明らかに罪悪感を感じている様子で、眼鏡の奥にある真っ黒な瞳がその事を物語っていた。
 美月はスマホをスクールバックの中へと入れた。