学校の校門をくぐり抜け、美月は行くあてもなく辺りをブラブラと歩いて回る。家は学校からの最寄駅から二つ先に住んでいる。自転車通学の申請も出せば毎日自転車で通うこともできるだろう。
 けれど今日は初日のため、バスで学校に向かい、歩いて辺りを散策したいと思っていた。それに家にある自転車は玲子のものだ。まだこの街に来て間もない美月は自転車を買うところから始めなければならない。

 お茶の街、宇治。今日は午前中だけの授業だったから、辺りを散策するのにもってこいだった。その上天気は晴れ。夏の暑さがまだまだ続く京都。盆地だからか夏は暑く、冬は寒いと聞いていたが、美月は気候など気にもならない。
 西と東では見える世界が違う。景色が違うのだ。だから自分も新しいこの場所で、スタートが切れるんじゃないかと小さな期待を胸に宿していた。

(どこかでバイト募集してないかな?)

 お小遣いくらいは自分で稼いだお金でまかないたいと考えていた。以前の街でも美月はコンビニでバイトをしていた。今回もコンビニバイトでもいいが、せっかくだから別の新しいことにチャレンジしたいと思い、こっちに引っ越してきた日からネットでバイト情報を探っていたのだ。

(カフェとかそういう飲食店で働いてみたい気持ちもあるけど……)

 カフェはどこか敷居が高い印象だった。バイト情報を見ても大抵が年齢で引っかかる。仕事に慣れている大学生を対象としているところが多いからだ。
 ブラブラとあてもなくさまよい歩きながら、美月は大きな川に突き当たった。すぐそばには京阪電車の宇治駅が見えている。家は宇治駅からもっと北側にあたり、学校から南下してきたせいで、この辺りを歩くのは初めてだ。

(川、渡ってみようかな。せっかくこの辺まで来たんだし)

 少し離れたところに、大きな橋が宇治川に架かっているのが見える。ちょうどその橋を見ていた時だった。

「平等院鳳凰堂……?」

 道しるべである標識にそんな文字が見えて、美月は首を傾げる。

(どこかで聞いたことある名前だけど、なんだっけ?)

 ちょうどそんな風に思っていた時だった。美月は駅にかけられている看板を見て、そこに印刷された写真を見て、ハッとした。

「そうだ、十円玉の表の絵だ」

 思わずひとりごちる。小学生の頃、歴史の教科書で小さく載っていたあの写真を思い出したのだ。

(そっか、世界遺産なんだっけ)

 そこに書かれた文字を読みながら、美月は再び歩き始めた。同時にポケットからスマホを取り出し、マップを開く。マップの到着地点を鳳凰堂へと設定しながら。