玲子が着替え終えてダイニングに戻ってくると、すでにダイニングテーブルの上には個々のカレーが並べられていた。

「あら、先に食べてくれてよかったのに」

 席に着いて皆玲子が戻ってくるまでスプーンに手をつけていない。そんな様子の中、タカとコウは今にも手を出しそうなほど、カレーに魅入っていた。

「せっかくやからみんなでいただきますしたいやーん」
「そう言いながらも、もうパブロフ犬状態だけどね」

 玲子の一言に、コウは顔を上げてヨダレを拭き取る真似をした。

「それじゃ、お待たせしました。いただきましょうか」
「待ってましたわぁ」
「……いただきます」
「いただきまーす!」

 玲子が席に座り手を合わせてた様子を皮切りに、皆各々で手を合わせた。その様子を一周するように見つめた後、ようやく手を合わせた。

「いただきます」

 スプーンで一口カレーをすくい取り、パクリと口の中へと運ぶ。いつも使っている市販のカレールーで、いつもと変わらないはずの食材。同じ味、同じメーカーのもののはずなのに、美月にはいつもよりもっと美味しく感じていた。

(……なんだろ、この家に初めて来た時の夜ご飯を思い出す……)

 美月がこの家に来た時はもう夕方だった。荷解きをしている中、玲子が作ってくれたのはオムライスだった。三人でこのテーブルで顔を突き合わせて食べたあの味を、美月は今でも覚えていた。
 それはなぜだか涙が出そうなほど美味しいと感じたのだ。

(味も料理も全然違うのに、変なの……)

「美月ちゃんどうかしたん?」

 向かいに座るコウが自分の顔を覗き込んでいることに気がついた美月は、ハッと顔を上げた後、小さく首を振った。

「ううん、なんでもない」

 そう言って再びカレーにスプーンを突き刺した。

「ところで美月ちゃん、新しい学校はどうだったの?」

 二口目のカレーを食べている時だった。今度は玲子が美月にそう投げかけた。

「なんとか関西のノリについていくのがやっとでした」
「あははっ、それはわかるなー。ねぇ、祐一さんもそうだったでしょ?」
「ああ、こっちの人は話すスピードが速いしな」

 普段から口数の少ない祐一にとって、関西のノリとスピードはきっと地獄だったのではないかと美月は推測していた。