「大丈夫です。私こそ今日、連絡いただいていたのに返信できなくてすみませんでした。実は今日スマホが壊れてしまったんです」
「えっ、そうだったの? 大変、新しいの買わないと……」

 玲子は大きな仕事用のカバンの中から財布を取り出した。きっとお金を用意しようとしているのだろうと状況を飲み込んだ美月は慌てて口を開いた。

「あっ、大丈夫です! もう新しいの買い替えました。番号も同じものです」
「お金足りたの?」
「はい、乗りかえ割で安かったので」

 美月は短パンのポケットから真新しいスマホを取り出して玲子に見せた。
 以前に持っていた型はかなり古く、バッテリーがすぐに切れてしまっていた。買い替え時だとはわかっていながらも壊れていなければ特段困ることもないと思い、美月は変えずにいたのだ。
 だから今回のこれは最新の型を選んでいた。次はいつ変えることになるかわからないからだ。

「それならいいけど……」

 ちょうどその時、部屋着に着替えた祐一が入って来た。

「なんだ、今日は帰宅が遅くなるんじゃなかったのか?」
「早く終わったの……って、祐一さんこそ、もう帰ってたのね」

 玲子は祐一の姿を見るなり、祐一の頬にキスをした。
 朝家を出る前と、帰宅した時にいつもこうしてキスをしている二人を初めて見たとき、美月は目のやり場に困った。けれどこうして一緒に暮らすようになり、祐一は照れはあれど玲子には全くないため、見ている美月もやがてこの習慣に慣れ始めていた。
 だが、そこをあえて突くのはタカとコウだ。

「ヒューヒュー! 二人ともあっついなぁー」

 コウに続いてタカも口を開く。

「なんや、冷房が効いてないみたいやわぁ。二人がラブラブすぎて」

 玲子はタカとコウの首に腕を絡ませながら、締めるフリをしている。

「私からしたらこれが普通なんだから、慣れてもらわないとここには住めないわよ」

 脅しとも取れるようなセリフを言いながら、玲子は二人に向かって笑っている。そしてその言葉を受けて、二人は冷やかしをやめた。

「お好きにどうぞー、別にうちら邪魔する気は無いしなぁ?」
「ほんまにやでぇ。ハグでもチューでもお好きにどうぞ」
「あははっ、あんまりそんなことを言うと祐一さんが照れて追い出すかもよ? 二人とも態度には気をつけてちょーだい」
「認めても冷やかしても追い出されるとか、うちら不憫すぎひん?」

 なんてタカは文句を言いながら薄い唇を富士山のように尖らせ、コウも首を縦に振って唸っている。

「ほんまに。世の中生きにくいわぁ」
「さてと、せっかく美月ちゃんが作ってくれた料理が冷めてしまわないうちにご飯にしましょ。私も着替えたらすぐ戻るから先に食べ始めていてね」

 そう言って玲子は着替えるために寝室へと向かった。