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「東堂さんって、前はどこの学校に通ってたん?」

 HRが終わり、短い休み時間の間に、クラスの女子は転校生である美月の席へと詰めかけて来た。高校二年目。みんなの制服はすでに馴染んでいるというのに、美月だけは真新しく糊付けされてる制服がどこか浮いていた。

「えっと、関東の方から引っ越して来たから、みんなは知らないかも……」
「あっ、すご、標準語やん!」
「いやいや、そらそーやろ。関東の人からしたら、関西弁ってどう思うん?」
「どう思うってなんなん? それ答えにくない?」
「いや、気になるやん?」

 ぽかんと口を開けている美月を中心に、美月を抜きにした会話を繰り広げる三人のクラスメイト。その会話のスピードについていけず、美月は呆気にとられていた。
 美月の父、祐一は元々関東出身で転勤によりここ京都に住んでいる。玲子に関しても同様で、元々は関西地区の人間ではない。そのため家では標準語が基本だった。

「で、どうなん?」
「えっと、なんか凄いね。テレビ見てるみたい」
「あははっ! それ、なんかいいな。テレビ見てるみたいやって」

 三人はさらに話を展開させていくが、美月は完全に置き去りにされている気分だった。テンポの速い会話にも、関西の訛りにもついていくのはやっとだった。
 そんな時だった。女子達の間からぬっと現れた人物が、美月の机の上に人差し指でトン、と叩いてこう言った。

「……転校生、担任が呼んでたぞ」

 髪と同じ黒い瞳が、メガネの向こう側から美月を真っ直ぐ見据えていた。

「あっ、ありがとう」

 お礼を言ったものの、名前が分からない。名前を聞こうかとしたけれど、その男子はあっさり美月の元から去っていく。

「なんや、あいつ。相変わらず愛想ないなー」
「しかも転校生ってなんやねん。さっき自己紹介したばっかなんやから東堂さんの名前くらい知ってるやろ」

 口々にそんなことを言い合う女子達。その女子の一人が立ち上がった美月に向かってこう言った。

「職員室の場所わかる? ついてこか?」
「ううん、大丈夫。今朝学校ついた時にも一度行ってるから」
「そっか。じゃあなんか分からんことあったら、なんでもうちらに聞いて」

 彼女は神木(かみき)葵乃(あおの)。美月の席についた時真っ先にそう名乗ってくれていた。
 そんな葵乃に向かって「ありがとう」とお礼を述べた後、美月は教室を後にした。