紅茶も徐々に冷えてきた頃、コウは神妙な面持ちでこう話を切り出した。

「ところでな、ちょっと聞いてもええかな? あっ、もし嫌やったら言わんでいいんやけどなー」

 コウのカップが空になっているのに気がついた美月は、ポットから紅茶を注ぎ入れようとしていた、ちょうどその時だった。コウの言葉の返事の代わりに、美月は少しだけ首を傾げてみせた。

「その美月ちゃんとのお母さんって、美月ちゃんとあんまりうまくいってなかったんやろか?」

 今日会ったばかりの初対面。そんな相手に踏み込んだ話をするのは心苦しく思ったコウは、美月の表情が曇ったのを見て取り、慌てて言葉を付け足した。

「別に無理して言わんでいいんやで! ほらなんていうの、うちらしばらくここにお邪魔することになったから、一緒に生活する身としてきになっただけやから、嫌ならいいねんー」

 綺麗な髪を掻き揚げて、コウは美月から注いでもらった紅茶を一気に飲み干した。

「コウは相変わらずズカズカ行きよんなぁ。踏み込むにも段階ちゅーもんがあるやんかぁ、なぁ?」

 タカはそう言いながら、コウの脇腹を肘でつついて、美月に向かって詫びるように笑っている。

「うちらかて訳ありやし。やからここにお邪魔することにしたんやから」
「あの、お二人の訳ありっていうのはなんなんですか……?」

 美月は素朴な疑問を口にした。するとタカは口ごもることもなく、はっきりとこう言った。

「うちらの家な、クーラーないねん。めちゃめちゃ暑いねん」
「……はい?」
「なぁ? ほんまやんなぁ? めちゃめちゃ日当たりいいし、なんならお日さんダイレクトに当たるしいいんやけど、夏はなぁ?」

 タカの言葉にコウはウンウンと首を縦に振っている。その勢いで綺麗な長い髪が少し乱れるほどだ。
 美月がぽかんとした表情で二人を見つめている。そんな美月の顔を見て、タカは真剣な面持ちで、声を沈めてこう言った。

「冗談ちゃうで、死活問題やからなぁ。僕らはクーラー買うお金ないし、あっても設置できる環境ちゃうねん」
「それって、どういう……?」
「家が特殊ってことやわー」

 美月の疑問に、コウが答えた。けれどその答えは、答えになっていないと美月は思った。

(二人は一緒に住んでるけど、お金がないのかな……? 家が小さすぎるとか?)

 状況が飲み込めないが、二人は揃って腕を組み、首をもたげている。真剣に悩むその様子を見て、美月はこれ以上聞いてもきっと理解できると思えず、紅茶をひとくち飲んだ。