「なんか美月ちゃんって、えらい手慣れてへん?」
「玲子さんがいつもこうして紅茶淹れてくれるから、覚えちゃったの」

 玲子はコーヒーをよく飲むが、逆に飲みすぎる癖があるため休日の朝食後は基本的に紅茶を飲むようにしていた。そのため、家にはたくさんの紅茶がまるでコレクションのように買いだめされており、美月はそれを時々試し飲みしていた。

「へー。ところでその丸いやつはなんなん? それもお茶なんやんな?」

 美月がテーブルにトレイを置いて、二人の目の前にティーカップをセットしていく。

「これは工芸茶って言って、目で楽しめる紅茶らしいんです。もうそろそろ咲くんじゃないかと……」
「咲く?」

 美月は二人から見やすい位置に、紅茶のポットを置いた。するとポットの中に入れた丸い紅茶のタネが、まるで硬いからを割るかのようで、殻が溶け出すかのように、どんどん開いていく。
 その様子を見ていたタカとコウは、子供みたいにこのポットに食い入っている。美月はそんな二人の様子がおかしくて笑ってしまった。見るからに二人は大学生か社会人だ。そんな大人が小学生のように見つめているこの様子に、ほのぼのとさせられていたのだ。

「おおっ!」

 そう声をあげたのはタカだった。それと同じタイミングで蕾だったタネが開き、その中から黄色い花が現れた。

「なんこれ、すっごー!」

 興奮の仕方も小学生のように、タカも瞳をキラキラと輝かせている。
 蕾が開ききったのを確認してから、美月はポットを掴んで、二人のカップに紅茶を注ぐ。ゆらゆらと揺れる紅茶の湯気からジャスミンの香りが優しく広がった。クーラーの効いた部屋で、その紅茶の暖かさはどこかホッとするものだった。

「味はジャスミンティーです。このお花を飲んだ後にグラスに移し替えて、一週間くらい鑑賞もできるんですよ」
「へー、めちゃめちゃ洒落てるなぁ」

 感銘を受けたようにタカはそう言って、注がれた紅茶のカップを手に取った。
 カップの中では亜麻色に輝きを放つ紅茶。少しフーフーと息を吹きかけてからそれをひとくち飲んだ。

「ほんまやぁ、普通にジャスミンティーやん。中の花はなんなん? ジャスミンちゃうよなぁ?」
「これは手摘みの茶葉を紐で括って、お花を包み込むように整えられたものなんですって。なので、お花はその時によって違うので、私もよく分からないんです」

 そもそも紅茶にこだわっているのは美月ではなく玲子だ。美月は玲子から聞いた話をかいつまんで話しているだけに過ぎず、元々詳しいわけでもないのだ。
 二人があまりにも驚くものだから美月もつい嬉しく思い色々言ったが、あまり聞かれると知らないことが露呈してしまうせいで、美月は思わず肩を竦めた。