「はい、これで拭いてください」

 そう言って美月は一枚をコウに渡し、もう一枚のタオルで濡れた床を拭きはじめた。さっきまでお湯だった水も、床に濡れて少し経過しているおかげで、触っても大丈夫なくらいにぬるくなっていた。

「美月ちゃん、さっきはごめんなー」

 コウはタオルを受け取り、自分の体を拭かず、美月と同様に床を吹き始めた。

「うち、女子高生とどうやって仲ようなろうかと思って、馴れ馴れしいことしすぎたわー」

 コウの話口調はタカとは少し違い、どこか間延びをするような緩い話し方だが、それでも心から謝っていることはその声色と表情から見て取れる。

「そうやで、コウ。馴れ馴れしすぎて、あんなんセクハラやろ。気つけやぁ」
「うん……って、なんでタカがそんなん言うねん。あんたは話に入ってこんと、床ふくの手伝ったらどうなん。むしろ美月ちゃんと代われ! むしろうちとも代われ!」
「なんでやねん! 美月ちゃんはわかるけど、あんたと代わったら僕、一人で拭くことなるやんかぁ」

 再び、タカとコウの言い合いが始まった。そんな中で美月は床を拭きながら、思わず吹き出した。

「……ぷっ」

 そんな音を聞いた瞬間、タカはすかさず中指と人差し指で鼻をつまんだ。

「コウ、気合い入れて拭くんはえーけど、屁ーこきなや」
「誰がやなん。てかほんまあんた手伝う気ないんか」
「ぷっ、ぶふっ」

 美月は堪えきれず、今度は肩を震わせて笑った。胸元まで伸びた長い髪が邪魔をして、美月の顔が隠れて見えなかったが、今では顔をあげて笑っている。
 そんな様子を見ているタカとコウは、顔を見合わせてホッとしたような表情を見せた。

「すごい。生で“なんでやねん”って、初めて聞きました」
「えっ、そこなん?」

 思わず突っ込んだのはコウだ。だけど美月があまりにも笑うものだからか、コウもつられて笑った。

「だって、私、テレビの中でしか聞いたことなかったんですよ。会話だって早いし、お二人が話し出したらついていけないです」
「えー大丈夫やでー。慣れる慣れる。うちらがおるから慣れるのすぐやで」
「あはっ、そうだといいですけど。クラスメイトもみんな話すテンポが早いので、聞いてるだけで精一杯です」
「美月ちゃんは聞き上手っぽいもんなぁ。やから僕らもついつい話しすぎてしまうんかも。初対面のくせになぁ」
「いや、あんたはいつでもぺちゃくちゃ喋るやん。一人でも壁とでも話できるやんー」

 コウの言葉を聞いて美月は思わず目を見開いた。普段からこうなのかと言われると、それも容易に想像ができ、かつ一人でも壁とでも話している様子を想像して、再び吹き出した。

「ぷっ」
「……美月ちゃんはオナラすんの好きらしいな」

 睨むように目を細めて見下ろしているタカの様子を見て、美月は慌てて表情を引き締めた。
 タカを怒らせたかと思ったが、すぐにタカも笑い始めたので、美月の頬は再び緩み始めた。