「もしあれやったら、週末の忙しい時間帯だけでも手伝ってもろたらええんちゃうの?」

 ちょうど美月が蕎麦を口に含んだその時だった。星夜の祖母が相変わらずうちわで扇ぎながら、そんな言葉をぽつりと呟いた。

「ちょっお義母さん、そんなこと言いますけど、週末やったら星夜が手伝えるし、人を雇うほど余裕あるわけちゃうんですよ」
「せやから週末の土日どっちかだけとか、忙しい時間帯だけとかにしたらええんちゃう? 星夜かて週末たまには遊びに行きたいやろし、むしろ星夜は別のところでバイトした方がええやろし」
「そりゃそうですけど……」

 頬に手を当てながら、困ったような表情をする星夜の母親。その様子に、美月は申し訳なくなり口を挟んだ。

「あ、あの、すみません。困らせるつもりは全くないので、無理にとは言いません。ただ、もしかしたら人を探してるんじゃないかと思ったので、聞いただけですので、気にしないでください」

 美月の様子に、星夜の母親は微笑んだ。

「こっちこそなんか気を遣わせてごめんなぁ。別に東堂さんを雇いたくないってわけちゃうんよ」
「はい、わかってます」

 美月もにっこりと微笑んだ。その上で、再び頭を下げた。

「他をあたりますので、さっきのことは気にしないでください」

 そんな様子を見て、星夜の母親と祖母は目配せをした。美月が頭を上げて最後のひとくちである蕎麦を口の中へと流し込むようにして食べた、その時だった。

「じゃあ、せっかくやし。もし東堂さんが短時間でもええって言うんやったら、お願いしよかな」
「……!」

 口に含んだ蕎麦のせいで、声は出せず、慌てて口の中にある蕎麦を咀嚼し、胃の中へと流し込んだ。

「……本当ですか?」
「うん。そやけど時間数少なくてあんまりお小遣い稼ぎにならんかもしれへんねやけど、それでもいいんやったら……」

 星夜の母親の言葉を引き継ぐようにして、祖母もこう言った。

「ええんちゃう? まだこっち来たばっかりで関西のことよお分かってないみたいやし。もし他のバイト見つかったらそっちで働くまでの繋ぎにしたらええやんか」
「まぁ、それもそうですねぇ」

 祖母の発言に、星夜の母親は明るい表情で反応を返した。働きたいと言うからには、バイト代を稼げなければ美月もバイトをする意味がないだろうと考えていた母親も、それだったらお互いにとって都合が良い。そう思って、美月を雇うことに前向きになった。