「俺店番とかしてるやろ」
「時々しかせえへんやんか。しかも愛想もないし、あんなんじゃお客さんが逃げてまうわ」
「はー!? ちゃんと接客してるわ!」

 美月はどうしたものかと、星夜と星夜の母親を目だけで追う。行ったり来たりを繰り返し、忙しない美月の視線を受けて、星夜の母親は美月にこう言った。

「東堂さん、もしクラスでも星夜が授業サボってたり悪さしてたらおばちゃんに教えてな」

 美月が星夜と初めて会ったのはつい数時間前のことだ。関係性も薄いせいで、なんと返事をしたらいいのかわからず、ただ「はぁ」とだけ返事を戻した。

「まぁまぁ、二人とも。初めての子の前でそんなケンカせんと仲良うしてるところを見せんと。星夜の友達が困ってるやないの。可哀想になぁ」

 言いながら星夜の祖母は再びかっかっかと笑っている。美月のことを言葉ほど本気で可哀想だと思っていないのが伺える。けれど特に意地悪だとか、バカにするような悪い感じもしない。

「あの、もしかしてアルバイトとか募集してたりしますか?」

 美月は思い切って声をかけた。バイトを探しているところでもあり、もしここで募集をしていたなら、家からも学校からもそれほど遠くもないし、うってつけだと思った。
 何より美月の大好きな抹茶の商品を置いてあるお店だ。カフェで働くことに憧れていたが、古都である京都だ。おしゃれなカフェよりも趣のある茶屋で働く方が何倍も素敵だと、美月は思っていた。

「今ちょうどバイトを探しているところなんです。もしアルバイトを募集されていたら、と思ったのですが……」

 勇気を出して言った言葉が、どんどん勢いを失っていく。それと同時に奮い立たせた勇気もしぼんでいくのを感じていた。
 それは星夜の母親の表情を見てのことだった。明らかに、星夜の母親は困ったような顔を見せていたからだ。

「そうねぇ、人を雇いたいのはやまやまやけど、うちも余裕があるわけちゃうからなぁ。それにうちの店は観光地にあるから、平等院が閉まる夕方にはうちもしめるねん。やからもっと早い時間に働ける人が欲しいんよ」

 なるほど、と納得しながらも、星夜の母親の話を聞いて、美月は意気消沈した。

(だからか。他のカフェとかの募集を見ても、どこも昼間働ける人を募集してたんだね)

 バイト情報をネット検索した時、カフェのバイトは大学生やフリーターの募集が多かった。高校生は年齢的に夜遅くまで働けないのと、社会経験が少なすぎるからかと思っていたが、それだけではないようだと、星夜の母親の話を聞いて痛感した。

「そうですか。だったら大丈夫です。無理言ってすみませんでした」

 美月は頭を下げて、にっこり微笑んだ。星夜の母親に困った顔をさせたことに申し訳なく思いながら、残りの蕎麦に箸を伸ばした。