キンと冷えた水は、外気との温度差でグラスが汗をかいている。美月は星夜に言われた通り、グラスを手にとって一気に飲み干した。
 グラスに口をつけ、ひとくち水を口に含んだ瞬間、美月は自分で思っていたよりも喉が乾いていたことにそこで初めて気がついた。

「でもあれか、熱中症やったら水よりジュースの方がええよな」

 水の入ったボトルをドンとテーブルに置いた後、星夜はレジ横にあるガラス扉の大きな冷蔵庫を見やった。お店によく置いてあるジュースを保存しておく冷蔵庫。そこに足を向けたのを見たとき、美月は慌ててこう言った。

「ううん、水で大丈夫。この後お蕎麦も食べるから気にしないで」
「いやでも、水やったらあかんってよく言うやん。塩分とか色々取れって……」

 星夜が歩き出すのを引き留めつつ、美月は開いたグラスに水を注いだ。

「本当に大丈夫。あれは熱中症とかじゃないから。なんて言うか……」

 そこまで言って、美月は口黙る。なんて言えばいいのかわからないでいたのだ。

(あの時、あのお堂の中ににる仏像の顔を見た瞬間、とても気分が悪くなった……だからこれは、熱中症からくるものじゃないと思う。そんな感じの気持ち悪さじゃなかった)

 現に今の美月は元気を取り戻していた。あれだけ気分が悪いと思っていたにも関わらず、あの平等院を出た後はまるで肩に乗っていた荷が降りたように、ふっと体が軽くなり、不快な感覚が消えていた。

「まぁそれやったらいいけど、とりあえず関西の夏は暑いからな。ちゃんと水分はとっとけよ」

 星夜が偉そうにそう言った後ろから、星夜の母親が再び現れた。その手にはお盆に乗せた素麺とつゆを乗せて。

「あんたえらい偉そうやな、星夜。東堂さんと知り合ったん今日なんやろ? もうちょっと言い方ってもんがあるんちゃうか」

 母親の説教じみた言い方に、再び星夜はぶっきらぼうな顔を見せた。そんな様子を見て、美月は思わず笑ってしまった。