「ただいま」

 星夜は店番をしているおばあさんに声をかけると、レジ前で椅子に座っていたおばあさんがにっこりと微笑みながら星夜と美月に言葉を戻した。

「おかえり。今日はえらいべっぴんな子を連れてるやんか」
「ああ、こいつ今日うちのクラスに転校して来てん。ところで、母さんは?」
「奥におるよ」

 祖母の返事を聞いた星夜は、おばあさんの横を通り抜けた後、縁側のような作りになっているそこに靴を脱いで、奥の引き戸を開けてさらに奥へと消えていった。
 美月はどうしたものかと戸惑うように、店内へと視線を泳がせるが、その間も好機な視線を星夜の祖母から感じ、さらに視線を多方面へと泳がせている。

「星夜のクラスメイトなんやて? お名前はなんていいはんの?」
「あっ、東堂です。東堂美月と言います」

 深々と頭をさげると、おばあさんはしわしわな顔をさらにくしゃりとシワを寄せた。

「うちは星夜のおばあちゃんです」

 その自己紹介の言葉と、ご年配特有とでも言うのだろうか。語尾が少し伸びる感じに美月は、小さく微笑みをこぼした。

「星夜と一緒に平等院にお参りに行ってはったん?」
「はい、染野くんが案内してくれました」

 美月が深々と頭を下げながらそう言うからか、星夜の祖母は再びシワを寄せて笑った。

「最近改修工事して塗り直されたら、綺麗やったやろ?」
「そうだったんですね。どうりで色鮮やかだと思いました」

 星夜の祖母に言われてハッとしたが、確かに外装がとても綺麗な色をしていたなと、美月は思い返していた。神社を思い出すような、朱色をした外観は1000年以上も経過したとは到底思えなかった。

「なぁ東堂、何飲むねん?」

 そう言いながらおばあさんのすぐ後ろから再び星夜が現れ、美月にメニューを手渡した。メニューと言っても少し写真が入った、両面印刷のA4サイズのメニューが濡れないようにパウチ加工をされているだけの、簡易なものだ。

「あっ、水で」

 美月はメニューを受け取らずそう答えるが、目の前にいるおばあさんが星夜からメニューを掴んで美月に渡した。

「今お客さんもおらへんから、なんか食べていき。お昼まだやろ?」
「いえ、私は別に……」

 そう言って遠慮する美月に対し、無遠慮にも美月にメニューを押し付けた。

「どっから転校して来たんかは知らへんけど、京都の宇治に来たら抹茶食べなあかんよ」

 かっかっかと笑う星夜の祖母。その屈託無く笑う様子に戸惑いつつ、抹茶という言葉に生唾を飲み込んだ。