美月は一歩、また一歩と後ずさる。敷き詰められたように地面に広がる砂利の音を奏でながら、美月は青ざめた様子でお堂から目を背けた。
「今日暑いからかな。ちょっと頭がぼーっとするみたい」
「大丈夫なんかよ。水は持ってるか?」
「あっ、自販機で買おうかな。さっき飲み干したから」
そう言いながらも美月は鳳凰堂に背を向けて歩き出した。
「それならうち来るか? すぐそこやし、家なら日陰で水分とって涼めるやろし」
「ううん、大丈夫。水買ったら大丈夫だと思うから」
星夜の思わぬ申し出に、さすがに申し訳ないと思った美月は自動販売機を探しながら辺りをうろついた。
星夜とは今日出会ったばかりのクラスメイト。名前すらさっき知った仲だ。それなのに突然家に押しかけるのはどうしたものかと、美月は自分の中にある良心の呵責に苛まれていた。
「いや、自販機で買うくらいなら家来たらいいやろ」
意外としつこく食らいつく星夜に、美月はどうしたものかと心の中で小さなため息を漏らした。
「これでも俺、東堂のスマホ壊した責任を少しは感じてるんやし」
(ああ、だからか……だから、染野くんは私をここまで案内してくれたり、会って間もない私を家に上げようとしたり、親切にしてくれるんだ)
「スマホが壊れたのは私の不注意だから気にしないで」
「うん、やから弁償するとは言ってないやろ」
あっさりそんなことを言いのける星夜に、美月は面食らう。けれど星夜はそんなことを御構い無しに、さらに話を続けていく。
「でもスマホ壊れたとか言われたら、やっぱちょっと罪悪感は出るやろ。原因というより、俺も関わってんねんからな」
星夜の意外な律儀さに、今度ばかりは美月が折れた。きっと星夜は折れないだろうと踏んだ上で、お茶くらい飲みに行ってもいいかと思えて来たからだ。
「……じゃあ、お言葉に甘えてしまおうかな」
「ほんじゃ、今から行こか。歩けるか?」
「うん大丈夫。だけどお店してるのに、本当に邪魔にならない?」
平日の昼間とはいえ、さすがは世界遺産の平等院。さっき星夜の家とは知らず、茶屋の様子を見ていた時、お店は観光客の対応で忙しそうな印象だった。考えることは皆同じとでも言いたげに、暑い京都の昼間を涼みに行っている様子だったのだ。
「別にいけるやろ。店が人いっぱいなら奥に上がったらいいし。そこはお客さんあげへん家族の場所やから」
「そうなんだ」
そう聞くと余計に上がるのは申し訳なく思うが、もう今更断れるとも思えない。美月は断念して星夜の後を追った。
「今日暑いからかな。ちょっと頭がぼーっとするみたい」
「大丈夫なんかよ。水は持ってるか?」
「あっ、自販機で買おうかな。さっき飲み干したから」
そう言いながらも美月は鳳凰堂に背を向けて歩き出した。
「それならうち来るか? すぐそこやし、家なら日陰で水分とって涼めるやろし」
「ううん、大丈夫。水買ったら大丈夫だと思うから」
星夜の思わぬ申し出に、さすがに申し訳ないと思った美月は自動販売機を探しながら辺りをうろついた。
星夜とは今日出会ったばかりのクラスメイト。名前すらさっき知った仲だ。それなのに突然家に押しかけるのはどうしたものかと、美月は自分の中にある良心の呵責に苛まれていた。
「いや、自販機で買うくらいなら家来たらいいやろ」
意外としつこく食らいつく星夜に、美月はどうしたものかと心の中で小さなため息を漏らした。
「これでも俺、東堂のスマホ壊した責任を少しは感じてるんやし」
(ああ、だからか……だから、染野くんは私をここまで案内してくれたり、会って間もない私を家に上げようとしたり、親切にしてくれるんだ)
「スマホが壊れたのは私の不注意だから気にしないで」
「うん、やから弁償するとは言ってないやろ」
あっさりそんなことを言いのける星夜に、美月は面食らう。けれど星夜はそんなことを御構い無しに、さらに話を続けていく。
「でもスマホ壊れたとか言われたら、やっぱちょっと罪悪感は出るやろ。原因というより、俺も関わってんねんからな」
星夜の意外な律儀さに、今度ばかりは美月が折れた。きっと星夜は折れないだろうと踏んだ上で、お茶くらい飲みに行ってもいいかと思えて来たからだ。
「……じゃあ、お言葉に甘えてしまおうかな」
「ほんじゃ、今から行こか。歩けるか?」
「うん大丈夫。だけどお店してるのに、本当に邪魔にならない?」
平日の昼間とはいえ、さすがは世界遺産の平等院。さっき星夜の家とは知らず、茶屋の様子を見ていた時、お店は観光客の対応で忙しそうな印象だった。考えることは皆同じとでも言いたげに、暑い京都の昼間を涼みに行っている様子だったのだ。
「別にいけるやろ。店が人いっぱいなら奥に上がったらいいし。そこはお客さんあげへん家族の場所やから」
「そうなんだ」
そう聞くと余計に上がるのは申し訳なく思うが、もう今更断れるとも思えない。美月は断念して星夜の後を追った。