「俺、名前覚えるの苦手やから……」

 言い訳がましそうに星夜がぽつりとごちた後、美月に向かってこう聞いた。

「で、お前……じゃない、転校生、名前はなんていうんやっけ?」
「あっ、東堂。東堂美月です」

 なんだかかしこまって聞かれると、美月もついかしこまってしまい、思わず敬語がこぼれた。

「あのねっ、実は……私も名前聞きたかったの!」

 美月は星夜の腕にしがみつくようにして、そう叫んだ。
 いつ切り出そうかと思っていたにも関わらず、タイミングを逃してしまっていたせいで、ずっと星夜の名前が分からないまま、ここまで来るのを手伝ってもらっていた。
 美月は今日転校してきたばかりで、クラスメイトは総勢30人だ。30人全員の名前を今日一日で覚えるのはかなり無理があった。
 美月の勢いに驚いた様子の星夜。そんな二人の様子を見ていた僧侶は、丸めた頭を手のひらでこすりながらも「はははっ」と、空を仰ぎながら声を立てて笑った。

「クラスメイトやのに二人とも、お互い名前も知らずに一緒におったんですか」
「聞くタイミングを逃してしまっていました」

 美月は苦笑いをその端正な顔に浮かべた後、思わず星夜の腕にしがみついていた手をパッと離した。

「美しい月と書いて美月さんですかね?」
「あっ、はい。そうです」

 わざわざ名前の字まで聞かれると思ってなかっただけに、返事がどもる。美月は僧侶の思慮深い表情を見つめていると、不思議と心が穏やかになる気がして不思議だった。

「お二人は似た者同士なのかもしれませんね。二人揃って名前も聞きそびれてたようですし、何より月と星ですやんか」
「星?」

 なんの話だろうと、美月が首を小さく傾けた時だった。隣に立つ星夜が僧侶の言葉を補うように、名前を名乗った。

「俺の名前に星がつくねん。染野(そめの)星夜(せいや)。星の夜って書いて星夜な」

(……へぇ)

「綺麗な名前だね」

 美月は心からそう言ったにも関わらず、星夜の表情はくぐもった。

「どこがやねん。星の夜とかロマンチック過ぎるやろ」
「えっ、そうかな? そんなことないと思うけど」

 今時かなり色んな名前があるし、当て字や造語のキラキラネームだってある時代だ。それらに比べると星夜の名前はそれほど気にする必要は内容に美月は思っていた。