「極楽いぶかしくは、宇治の御寺をうやまへ……極楽浄土を疑ったり信じられなくなったら、平等院に行って拝んでみたらいい。そしたらまた極楽浄土を信じ直すことができる……だったな」
今度は思い返すように黒い瞳を空へと向けて、星夜はそう言った。そんな星夜の様子を見上げながら、美月はその言葉の意味を噛み砕こうとしていた。
「極楽浄土……そんなの、本当にあるの?」
ぽつりとこぼしたその言葉を拾った星夜は、声を立てて笑った。
「ははっ、まさにお前みたいな奴が平等院行って拝んでみたらいいんちゃうか? って詩やわな」
星夜は笑っているが、美月は考え込むように頭を少し下げた。その様子を見て、美月を傷つけたんじゃないかと焦った星夜は、恐る恐る美月の顔を覗き込むように、腰を少し折り曲げて様子を伺っている。
「……極楽浄土って、ある意味で天国ってことだよね?」
美月の様子を見て、傷ついたわけじゃないと気づいた星夜は、ホッとした表情でその問い答えた。
「まぁ、そうかもな」
「そっか」
美月は顔を上げて空を見上げた。透明感のある青い空を見上げて、美月は思った。
(極楽浄土ってこの空の向こう側にあるのかな)
「おい、転校生。お前、そんな空見上げて歩いてたら、転ぶぞ」
首の前をぐっと伸ばして見上げていたせいで、星夜はそんな言葉をかけながら訝しげな表情で美月を見つめた。
「女の子にお前なんて言い方すんのは、なかなか口が悪いですなぁ」
二人の背後から突然声をかけられ、美月は思わず肩を揺らして驚いた。星夜は驚いた様子はなく、ゆっくりと振り返ってそこに立つ人物を見やった。
「こんにちは」
星夜は小さく会釈をすると、背後にいるその人物は優しい笑顔で星夜と同様に頭を下げた。
「はい、こんにちは」
神社やお寺のしきたりに疎い美月でもよくわかる。星夜と挨拶を交わす人物は、間違いなくここの僧侶だろう。
僧侶は黒の法衣に身を包み、頭を丸めている。見るからに優しそうで、それでいて穏やかな雰囲気をその風体から滲み出している人物だ。
「今日は可愛らしいお嬢さんを連れてるますやんか。そんな可愛いお嬢さんに向かってお前なんて言い方すんのは、あんまりやと思いますよ?」
星夜は鼻の頭をぽりぽりと人差し指で掻いた。
「いや、この子転校生なんですよ。今日転校してきたばっかやから名前知らないんです」
「ほんなら聞いたらいいでっしゃろ。ちゃんと名前があるんやから、名前で呼ばなでしょ?」
ねぇ? と美月に賛同を得ようとしている口調だった。美月はなんて答えたらいいものかと考えながら、つい愛想笑いを浮かべてしまった。
今度は思い返すように黒い瞳を空へと向けて、星夜はそう言った。そんな星夜の様子を見上げながら、美月はその言葉の意味を噛み砕こうとしていた。
「極楽浄土……そんなの、本当にあるの?」
ぽつりとこぼしたその言葉を拾った星夜は、声を立てて笑った。
「ははっ、まさにお前みたいな奴が平等院行って拝んでみたらいいんちゃうか? って詩やわな」
星夜は笑っているが、美月は考え込むように頭を少し下げた。その様子を見て、美月を傷つけたんじゃないかと焦った星夜は、恐る恐る美月の顔を覗き込むように、腰を少し折り曲げて様子を伺っている。
「……極楽浄土って、ある意味で天国ってことだよね?」
美月の様子を見て、傷ついたわけじゃないと気づいた星夜は、ホッとした表情でその問い答えた。
「まぁ、そうかもな」
「そっか」
美月は顔を上げて空を見上げた。透明感のある青い空を見上げて、美月は思った。
(極楽浄土ってこの空の向こう側にあるのかな)
「おい、転校生。お前、そんな空見上げて歩いてたら、転ぶぞ」
首の前をぐっと伸ばして見上げていたせいで、星夜はそんな言葉をかけながら訝しげな表情で美月を見つめた。
「女の子にお前なんて言い方すんのは、なかなか口が悪いですなぁ」
二人の背後から突然声をかけられ、美月は思わず肩を揺らして驚いた。星夜は驚いた様子はなく、ゆっくりと振り返ってそこに立つ人物を見やった。
「こんにちは」
星夜は小さく会釈をすると、背後にいるその人物は優しい笑顔で星夜と同様に頭を下げた。
「はい、こんにちは」
神社やお寺のしきたりに疎い美月でもよくわかる。星夜と挨拶を交わす人物は、間違いなくここの僧侶だろう。
僧侶は黒の法衣に身を包み、頭を丸めている。見るからに優しそうで、それでいて穏やかな雰囲気をその風体から滲み出している人物だ。
「今日は可愛らしいお嬢さんを連れてるますやんか。そんな可愛いお嬢さんに向かってお前なんて言い方すんのは、あんまりやと思いますよ?」
星夜は鼻の頭をぽりぽりと人差し指で掻いた。
「いや、この子転校生なんですよ。今日転校してきたばっかやから名前知らないんです」
「ほんなら聞いたらいいでっしゃろ。ちゃんと名前があるんやから、名前で呼ばなでしょ?」
ねぇ? と美月に賛同を得ようとしている口調だった。美月はなんて答えたらいいものかと考えながら、つい愛想笑いを浮かべてしまった。