大通りに出て、線路沿いに進んでいく。

その道すがら、わたしはナオキの隣を歩きながらあちこちを指さした。


「あの陸橋の下に秘密基地があったんだよ」

「へえ」


ただ、そこは穴場でもなんでもなくて、たくさんの子ども達が知ってる場所だったから右隣にも左隣にも同じような段ボールの家があった。

横なぐりの雨が降った日にすべてぐちゃぐちゃになって、それからは二度と作らなかったけれど。

時間が経てばまた別の代の子ども達がそこに集まっていたことを知っている。

今もそうなのかはわからない。


「あの直売所は野菜がすごく安くて、大きくて、美味しいからスーパーじゃなくてそこで買えって夏哉が教えてくれた」


空き地に建てられたプレハブ小屋。

外観は綺麗とは言えなくて、サビが目立つけれど、ちらほらと人の姿が見える。

夏哉とふたりで買い物に来ることもあったのに、いつから近寄らなくなったんだろう。


「そこの公園は夏哉がよくバスケしてたところ」


例のイベントがあった公園には常設のバスケットゴールがないから。

今はもうすっかり寂れていて、土曜の昼だというのに人の姿もない。

ここももう随分と古い公園で、バスケットゴールのネットはびろんと一本細長く垂れ下がっているだけで、不格好なリングはかっこ悪い。


「あっちに見えるのが中学校」


思えば、あの頃がいちばん苦しくて、いちばん楽しかった。

夏哉が、いちばんそばにいてくれた。

夏哉を愛おしいと思って、くちびるを噛むような瞬間があった。


もし、もしも。

夏哉がわたしを救ってくれた、中学2年生の5月に戻れたのなら。

わたしは、夏哉が見つけられないほど遠くに逃げて、この命が救われることのないように、誰にも見つからない場所に隠すのに。


どうしようもない、後悔だ。

誰も彼も、わたしが表情にその感情を出せば、夏哉の死を引き合いに出してくるけれど、そうじゃない。

夏哉に助けられたことのある命のくせに、夏哉の命は救えなかったことが、歯痒くて、でももうどうしようもないから。

せめて、あの日、わたしが救われなければよかったと思うんだ。


夏哉が亡くなった場所の詳細はナオキが受け取っていたみたいで、川原についてからはナオキが前を歩いた。

岸に打ち上げる波の先を見遣ると、対岸という名の終わりがあった。

海は、どこまでも終わりがないのに。


「花がある」


橋の下に入ったところで、ナオキの声に顔を上げると、岸から少し離れたところに小石が積み上げられていて、斜めに立て掛けられた野花の束は少し枯れかけていた。

誰かが供えたのだろう。

ここで夏哉が死んだことを知っている人なんて、限られているけれど。


離れたところに設置された低い護岸ブロックに座り、足を抱える。

膝の間に顔を埋めて、小さく息を吸い込む。


「これ、夏哉から」


顔を上げて、鞄から取り出した手紙をナオキに渡す。

これで、あと、2枚だ。

減っていくことはわかっていたし、減らなきゃ困るはずなのに、あとたったの2枚だという事実が胸に伸し掛ると、息ができなくなるほど苦しい。


【⠀ナオキへ 】の文字はなくて、封筒に振られたのは四通目であることを表す【⠀4 】だけ。


「一緒に読んでもいい?」


「おう、いいぞ」


手紙があったことには驚きもせず、ナオキは封筒を開いていく。

素早く、丁寧に。

わたしがユリへの手紙を開けたときのようにボロボロにはならず、綺麗に封を開けたナオキが便箋を取り出した。

わたしにも見やすいように、ふたりの真ん中に開いた白い紙には、長い文章が綴られていた。