「そんなこと、あるかよ。夏哉だったなんて、そんな……」


アキラのときとは異なる反応だけれど、きっとこれも普通なのだと思う。

声に出ている自覚があるのかないのかもわからない。

同じ言葉を繰り返して、ナオキは緩く首を振った。


「なあ、あいつ、なにが原因で……」


そこまで言って、口を噤んだ。

きっと、夏哉のお父さんは自分の口から息子の死のことを話したりはしなかったはずだ。

たまたま知ってしまっていただけ。その事実が今、繋がってしまっただけ。


こんな遠い場所で知り合い、トモダチと呼べるほどの関係を築いたナオキには、夏哉が自殺であったことを伝えてもいいだろう。

けれど、自分の大学の先生、その息子としての夏哉の死の原因を知ることには躊躇いがあるというような、そんな間が続いた。


「あの……」

「いい。言うな」

「え……?」

「俺は、先生に聞くよ。今は春休みだから、すぐにとはいかないけど」


ようやく、別の感情を吐き出せる、というように語尾にかかり気味に乾いた笑いを漏らすから、たまらず口走りそうになる。

それを堪えて、自分のカバンを布地の上からそっと押さえる。


この手紙を渡してしまえば、少なくとも夏哉が事故で死んだわけではないことがバレてしまうだろう。

病気か、自殺か、それくらいしか思いつかない。

ナオキへの手紙の内容だなんてもちろん想像できないし、けれど書いてあることによっては病気の線も消されてしまう。

夏哉が残したもので真相を知るのなら、いくらでも責任転嫁のしようがある気がしたけれど、渡すか渡さないかが委ねられている時点で、責任のほとんどはわたしにあるのだろうから。

この手紙は渡せない、今は。


「夏哉の家、案内しようか」


案内といっても、隣の家なのだけれど。

春休みが終わるまでは、わたしが待っていられない。


「そ、だな。助かる。連絡先、聞いといていいか」

「あ、うん。えっと、携帯……」


お互いにぎこちない動作で携帯を操作し、連絡先を交換する。


「悪い、名前打ってもらっていいか」


登録画面の名前の入力画面でこちらに携帯を渡されて、自分の名前を入力する。


「橘……冬華。そうか、あんたが冬華か」

「もしかして、夏哉から何か聞いてました?」


不用意に夏哉の名前を出していいものかと思ったけれど、ナオキは何かを思い出すように目を細め、微笑む。


「レンアイ相談」

「へっ!?」

「に、乗ってもらってんだ。俺が」


へへ、と人差し指で鼻の頭を掻いて、口元を緩める。