「その母親も身体が弱い方だったんだよ!
アディが幼い頃に亡くなっている。
どうやって皇后になったまでは、俺にも知らないけど
それから産まれた息子のアディも身体が弱くて
周りからも「あんなに弱くて皇帝になれるのか?」と
白い目で見られたらしくてね。
そんな時に母親の好きな本に影響されたらしいんだ。
自分もあんな強い皇帝になれば周りも認めてもらえ
母親の供養にもなると思ったんだろうね。
それから体力をつけるために鍛えたり、必死に努力して
今の姿になった訳なんだよ……」
ゼトリック様の言葉に私は、黙って聞いていた。
あの男に……そんな辛い過去が!?
ただ本に影響されやすい単純な性格をしているのだと
思っていたが……本当は、母親のためだったんだ?
強い皇帝なれば母親の供養になるからって……一体
どんな気持ちで過ごして来たのかしら?
私は、あの男の心情を考えると胸が苦しくなった。
するとゼトリック様は、そんな私を見て
クスッと苦笑いしていた。
「でもね……本当の周りは、アディに対して
白い目で見たのではなく心配してだったんだけどね。
でもまだ幼いアディは、それが責められているように
感じたんだろうね?それに努力のお陰か
見る見る内にアディも丈夫に育ち元気になったから
父親の元皇帝陛下や俺も含めて周りの人も
何も言えなくてね。
だから彼ばかりが悪い訳ではないんだ……」
私は、そのゼトリック様の表情を見て
あの男の周辺の人達の気持ちを理解する。
大切だからこそ言えなかったのだと思えた。
「……そうだったんですね」
「もし気を悪くさせたのなら許してやってね?
彼は、俺の大切な親友でもあるから
今では、憎まれ口を叩いてくるけど、あぁ見えて
マメな性格でね?よく手紙をくれるんだよ。
お互いに皇帝になってからなかなか会えないけど
自分の身近の話や君の事も話してくれた。
初めて恋をした女性なんだってさ」
ゼトリック様の言葉に思わず頬が熱くなった。
もう……何恥ずかしい事を話しているのよ!?
初めて恋をした女性だなんて……。
どうやら手紙を寄越す癖があるのは、
こういうところで出来たのだろう……。
本当に不器用で、どうしようもない人。
だからそんな彼を私は、嫌だと思わなかった。
事情を聞いたから……ううん。違う。
私は、あの男の……そういう優しさにいつの間にか
惹かれていたのだろう。
やっぱりあの男には、お菓子を食べてほしいと思った。
せっかくの誕生日なんだもの。あの男の大好きな物で
お祝いがしたい。
「あの……ゼトリック様にお願いがあります」
私は、あるお願いをした。もちろん他にも
エレンや周りの人達にも……。