「行っちゃったね……」

「あぁ……そうだな」

私がそう言うとあの男も頷くように答えてきた。
これで私は、二度と元の世界に帰れなくなったのだろう。
寂しくもあり、懐かしくもあった。
しかし思ったよりも悲しくないのは、この男の
ぬくもりのせいだろうか。
繋がられたは、今もギュッと繋いでくれていた。

「本当に良かったのか?俺のせいでもあるが……」

申し訳なさそうに言ってくる。
私は、小さく横に首を振った。そして
ニコッと笑った。

「私は、自分で決めて残ることにしたの。
あなたのせいではないわ。それに……スッキリしたの」

ずっとモヤモヤした気持ちが取れた気分だった。
何処かで、そうなるような予感がしていたのかもしれない。
私がこの男の意外なギャップや想いに気づいた時は、
すでに恋に落ちていたのだ。

ただ認めたくなかっただけ。
意地を張ることで自分は、この世界の人間ではないと
境界線を張っていたのだろう。
でも、もうその必要はない。私は、この世界で
生きて行くと決めたのだから。

「さぁ中に入りましょう。身体が冷えちゃうわ」

私は、あの男の手を引いた。
彼は、ちょっと驚きながらもクスッと笑う。
「あぁ、そうだな」と言いながら……。

これでいい。ここは、私が生きて行くと決めた世界。
不安がない訳ではない。でもそばに
この男が居てくれる。それに放っておけないもの。
だから……遠い故郷で見守っていてね。
お母さん……お父さん。

そう思いながら夜空を見た後に
私達は、そのまま宮殿の中に入って行くのだった。

その夜は、お互いに想いをぶつけ合うように
ただ愛し合うのだった。
抱き締めながら眠りにつく頃には、すでに
日時が変わっていた。
寄り添うながら、そう遠くない未来の夢を見ていたのだった。