その夜は、この秘密の部屋で一晩過ごした。
お互いに気持ちを確かめるように……愛を重ねていく。
そして改めて自分の気持ちにケリをつけることを決心した。
ソファーで眠りつくが朝になると
こっそりと秘密の部屋を出て寝室に戻った。
いつもと変わらない日常に戻るが、何かが違う。
気持ちに整理が出来たからか晴々しい気持ちだった。
何よりあの男がそばに居てくれるのが嬉しかった。
問題は、今日の夜だ。
夜になるのを待って私は、言われた通りに
噴水の前まで行った。
あの男も一緒に行くと言いついてきていた。
約束の時間になるとあの時の神だという黒猫が姿を現した。
『約束通りに答えを貰いに来たよ。
君の答えを聞かせておくれ』
私は、ドキドキして震えている手を必死に
落ち着かせようとする。するとあの男は、私の手を取ると
ギュッと握り締めてくれた。
温かくて優しい手だ。
そのぬくもりを感じると自然と落ち着いてきた。
私は、その気持ちを受け取り真っ直ぐと前を向いた。
「ごめんなさい……せっかくのご厚意だけど
私は、元の世界には戻りません。この人と
これからも一緒に生きたいからこのまま残ります」
両親や友達に会えなくなる。
寂しくないと言えば嘘になるし、後悔しないとも限らない。
でも、それ以上のモノを私は、手に入れてしまった。
失いたくない。この男の想いも存在も。
だから残ることにした。
これは、自分自身で決めた決断だった。
時の神である黒猫は、黙って聞いていたが
フッと笑っていた。そして私の方を見た。
『君の願い聞き入れた。実は、ここに来る前に
もう1人のユリアって子にも同じ質問をしたんだ。
すると彼女も同じ意見だった。彼女も三浦って男を愛し
こちらで一生を迎えたいと言っていた。
君達は……性格は、違うけど何処か似ている。
顔もだけど……その純粋さが。
だからだろうね。魂が共有したんだろう』
私と……もう1人のユリアって子が?
『彼女にもそのことは話しておく。
では……これで。君達に末長く祝福を……』
そう言うと黒猫は、スッと消えて行った。
噴水の輝きも消えて元の状態に戻っていた。
残された私達は、ポカーンとしていた。
まるで夢を見ているようなおとぎ話の世界だった。
いや。この世界そのものがおとぎ話みたいなものだが
何だか不思議な気持ちだった。