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「柊さん、月岡君に告白したんだって」
「えっ!」
 突然の出来事に、夏月は思わず声を上げてしまった。まさか柊が、自分から振った相手に告白をするなんて思ってもみなかったから。
「でも、月岡君は断ったらしいよ」
「そ、そうなんだ……」
「当然だよね。だって森川さんと付き合ってるんだもん」
 そう夏月に告げると、クラスメイトの女子は夏月よりも仲の良い女子の方へと走っていった。
 帰りのホームルームが始まる前。ふと夏月は太一の席へと視線を向ける。太一は告白されたことなんてなかったかのように、いつも通り手塚と会話していた。
 昔の太一は、告白したことを真っ先に夏月に伝えてきた。だから告白された時も、同じように伝えてくれると思っていたのに。
 本当に太一は変わった。わかっているはずなのに、変わってしまった太一を見ると、夏月の胸はキュッと痛みを発する。
 全部自分がいけないのに。自分も変わらないといけないのに。
 手を伸ばしても届かないところに、太一は行ってしまったのかもしれない。
 瞬間、視界が暗転する。そして忽然と太一が現れた。
 急な出来事に困惑している夏月をよそに、太一は背を向けて走り出した。目の前を走る太一を捕まえようと、夏月は必死に手を伸ばす。でも夏月の手は太一に届かなかった。夏月が走るのを諦め、太一の背中を見ていると、太一が足を止めた。その場所にいたのは、紗雪だった。二人は仲良く手を繋いで笑い合っている。まるで幸せを象徴しているような二人の笑みに、夏月の胸はさらに痛みを発した。
 こんな未来、見たくない。そう思った瞬間、再び視界が暗転した。
 ゆっくりと重たい目を開ける。
 暫くして、夏月の視界に見なれた景色が映し出される。そして自分の部屋だと 気づいた夏月は、夢を見ていたんだと自覚した。
 身体を起こして掛け時計に視線を移す。もうすぐ日付が変わる時間になっていた。
「駄目だな、私」
 今日学校で起きたことを夢で見るなんて。太一のことをどれだけ引きずっているのか。
 夏月は枕元にあったクマのぬいぐるみに手を伸ばすと、ギュッと力を込めて抱いた。いつも不安を感じたりすると助けてもらっている。この年になって、ぬいぐるみを抱くのはどうなのかって素に戻ることもあるけど、誰も見ていないプライベートの空間なのだから問題ない。と無理矢理自分を納得させていた。