強く生きることを望んでくれた人がいたから。
 大切な人の存在があったからこそ、紗雪は生きたいと強く思えた。
 空に今もなお輝き続けて、必死にいることを人類に伝えているベテルギウスのように。
「学校、行けそうか?」
 席を立った父が、紗雪の肩に手を置いた。そのずっしりとした重みが、紗雪の心に響く。
「……うん」
 ゆっくりと紗雪が頷くと父は笑みをみせ、シンクにマグカップを置いた。そしてハンガーにかけてあったスーツを羽織ると「行ってくる」と言って、そのまま家を出て行った。
 テレビでは依然、超新星爆発についての話が繰り広げられている。
 学校でも必ず皆が話題にする話。超新星爆発の話題は暫く学校でも続くだろうなと思いつつ、紗雪はテレビの声に耳を傾ける。
 もしもクラスメイトと超新星爆発の話になったら。
 そんな淡い期待が脳裏に浮かぶ。でもすぐに紗雪は、その考えを振り払うように首を振った。
「……何馬鹿なこと考えてるんだろう」
 楽観的な考えをしていた自分に、少し後悔を覚える。
 だって今の自分には、話しかけてくれる友人なんて一人もいないのだから。
 そんな環境を作ったのも、全て自分の責任。
 息を吐いた紗雪は、まだ騒がしいテレビを消してからゆっくりと席を立った。鞄にスペースを作り、父が作ってくれたお弁当を入れる。
 学校で幸せでなくても、今の紗雪には帰る場所がある。
 その場所をくれた、大切な人とした約束を守るために。
「行ってきます」
 ドアを開けた紗雪は、二つの輝く恒星の光を全身に浴びた。