生の匂いを強く感じた。
一度は死を望んでいた人が、その苦しさを乗り越えた時に初めて出会う匂い。
人それぞれ匂いの感じ方には差異がある。それは、その人が死から生へと近づいた時の環境に依存するから。紗雪にとってその匂いを例えるなら、少し汗臭いのに何故だか病みつきになる、とても温かくて包容力のある匂いだった。
目を開ける。視界に天井が入る。暫くして、夢を見ていたんだと紗雪は実感した。ゆっくりと身体を起こし、窓のある方へと視線を移す。カーテンの間から、光が差し込んでいるのが見えた。
何時だろう。スマホを手に取り、時間を確認する。
午前六時過ぎ。
紗雪はほっと息を吐いた。カーテンを開け、部屋に太陽の光を取り入れる。いつも以上に明るさを感じたのは、偶然ではない。紗雪が窓越しに空を見上げると、太陽と同じくらい輝いている星が空で光を放っているのだから。
紗雪は身支度を整え、リビングへと向かった。いつも一人だった空間に、生活感漂う音が響いている。紗雪はドアを開け、リビングへと入った。
「おはよう、紗雪」
「……おはよう」
まさか父とこうして挨拶を交わすようになるなんて。今までの父との関係を考えると、絶対に訪れることがないと思っていた日常なだけあって、紗雪の心は大きく揺れた。
「朝ごはん、作った。冷めないうちに、早く食べなさい。あと、お弁当も作ったから」
父はそう言うと、半身を向けていた身体を戻して皿洗いを始めた。
紗雪は席に座ると、改めて父の方へと視線を移した。何故だかわからないけど、父の背中が異常に大きく見える気がする。普段、見たことがない光景を目の当たりにしているからなのかもしれない。紗雪は用意されたお皿に視線を移す。こんがりと焼かれたトーストと一緒に、誰が見てもわかるくらい焦げている目玉焼きが目に入る。瞬間、自然と笑いが込み上げてきた。
父が家事などできないことはわかっていた。今まで家のことに関しては、母が家からいなくなって以来、紗雪が一人でやってきたのだから。
一度は死を望んでいた人が、その苦しさを乗り越えた時に初めて出会う匂い。
人それぞれ匂いの感じ方には差異がある。それは、その人が死から生へと近づいた時の環境に依存するから。紗雪にとってその匂いを例えるなら、少し汗臭いのに何故だか病みつきになる、とても温かくて包容力のある匂いだった。
目を開ける。視界に天井が入る。暫くして、夢を見ていたんだと紗雪は実感した。ゆっくりと身体を起こし、窓のある方へと視線を移す。カーテンの間から、光が差し込んでいるのが見えた。
何時だろう。スマホを手に取り、時間を確認する。
午前六時過ぎ。
紗雪はほっと息を吐いた。カーテンを開け、部屋に太陽の光を取り入れる。いつも以上に明るさを感じたのは、偶然ではない。紗雪が窓越しに空を見上げると、太陽と同じくらい輝いている星が空で光を放っているのだから。
紗雪は身支度を整え、リビングへと向かった。いつも一人だった空間に、生活感漂う音が響いている。紗雪はドアを開け、リビングへと入った。
「おはよう、紗雪」
「……おはよう」
まさか父とこうして挨拶を交わすようになるなんて。今までの父との関係を考えると、絶対に訪れることがないと思っていた日常なだけあって、紗雪の心は大きく揺れた。
「朝ごはん、作った。冷めないうちに、早く食べなさい。あと、お弁当も作ったから」
父はそう言うと、半身を向けていた身体を戻して皿洗いを始めた。
紗雪は席に座ると、改めて父の方へと視線を移した。何故だかわからないけど、父の背中が異常に大きく見える気がする。普段、見たことがない光景を目の当たりにしているからなのかもしれない。紗雪は用意されたお皿に視線を移す。こんがりと焼かれたトーストと一緒に、誰が見てもわかるくらい焦げている目玉焼きが目に入る。瞬間、自然と笑いが込み上げてきた。
父が家事などできないことはわかっていた。今まで家のことに関しては、母が家からいなくなって以来、紗雪が一人でやってきたのだから。