自らの罪を森川先生は吐露する。一方の紗雪は、表情を変えず森川先生に睥睨の視線を送っていた。当然だと太一は思った。森川先生は何もしてこなかったのだから、紗雪がすんなり許してくれるわけがない。
森川先生が犯した罪は消えない。でも、今までの関係を変えることはできると太一は思っている。森川先生がここに来てくれたのは、紗雪と歩み寄ることを決めたからだ。病院ではもう無理だと言っていた。でも、何かを変えようと森川先生は一歩踏み出してくれた。逃げずに向かってくれた。
後は逃げ続けてきた紗雪が、向き合ってくれるかどうか。
「それなら、もうボンドの研究に手を出さないで」
「……それはできない」
森川先生の言葉に紗雪は目を見開くと、日記帳を突きつけた。
「これを見てもそんなこと言えるの? ここにはお母さんの字ではっきりと書かれている。ボンドは私達家族を離れ離れにする、麻薬のようなものだって」
紗雪は書かれた文章を読み上げると、森川先生を睨んだ。
森川先生は紗雪から視線をそらすと、暫くの間、虚空を見つめていた。何か考えているように太一には見えた。
そして顔を上げた森川先生は、紗雪に告げる。
「そうだ。私は雪菜と約束した。ボンドの研究を続けると」
瞬間、紗雪は柵に足をぶつける勢いで身を乗り出した。
「約束って何? お母さんはボンドを嫌っていた。ボンドの研究に関わってほしくないって思いが書いてある。研究を続けたいからって、そんな嘘つかないで」
「それは違うってさ――」
「あなたは黙ってて」
紗雪に釘を刺された太一は、口を結ぶしかなかった。
紗雪は森川先生を睨み付ける。心の底から森川先生を憎んでいる、そんな顔つきだ。
「ありがとう、太一君。私がすべてを紗雪に話します」
そう太一に告げた森川先生は、紗雪を真っ直ぐ見つめた。
「……紗雪に見てほしいものがある」
森川先生が取り出したのは、ネモフィラのシールが貼られた大学ノートだった。
「ノート?」
「そうだ。このノートは母さんが刑務所に入った後、所内で書いていたものだ」
森川先生は柵に近づくと、持っていたノートを紗雪へと差し伸べた。紗雪は動揺しながらもそれを受け取り、ゆっくりとノートを開いた。
森川先生が犯した罪は消えない。でも、今までの関係を変えることはできると太一は思っている。森川先生がここに来てくれたのは、紗雪と歩み寄ることを決めたからだ。病院ではもう無理だと言っていた。でも、何かを変えようと森川先生は一歩踏み出してくれた。逃げずに向かってくれた。
後は逃げ続けてきた紗雪が、向き合ってくれるかどうか。
「それなら、もうボンドの研究に手を出さないで」
「……それはできない」
森川先生の言葉に紗雪は目を見開くと、日記帳を突きつけた。
「これを見てもそんなこと言えるの? ここにはお母さんの字ではっきりと書かれている。ボンドは私達家族を離れ離れにする、麻薬のようなものだって」
紗雪は書かれた文章を読み上げると、森川先生を睨んだ。
森川先生は紗雪から視線をそらすと、暫くの間、虚空を見つめていた。何か考えているように太一には見えた。
そして顔を上げた森川先生は、紗雪に告げる。
「そうだ。私は雪菜と約束した。ボンドの研究を続けると」
瞬間、紗雪は柵に足をぶつける勢いで身を乗り出した。
「約束って何? お母さんはボンドを嫌っていた。ボンドの研究に関わってほしくないって思いが書いてある。研究を続けたいからって、そんな嘘つかないで」
「それは違うってさ――」
「あなたは黙ってて」
紗雪に釘を刺された太一は、口を結ぶしかなかった。
紗雪は森川先生を睨み付ける。心の底から森川先生を憎んでいる、そんな顔つきだ。
「ありがとう、太一君。私がすべてを紗雪に話します」
そう太一に告げた森川先生は、紗雪を真っ直ぐ見つめた。
「……紗雪に見てほしいものがある」
森川先生が取り出したのは、ネモフィラのシールが貼られた大学ノートだった。
「ノート?」
「そうだ。このノートは母さんが刑務所に入った後、所内で書いていたものだ」
森川先生は柵に近づくと、持っていたノートを紗雪へと差し伸べた。紗雪は動揺しながらもそれを受け取り、ゆっくりとノートを開いた。