急に押し寄せてきた不安に駆られた太一は、急いで自分のスマホを手に持つと、学校のポータルサイトにアクセスする。入学時に普及された学生番号と、自分で決めたパスワードを入力して、血液検査の結果を表示させた。
「嘘だろ……」
 太一の頭は二つのことで混乱していた。一つは個別サイトにしかない情報を有香が持っていたこと。どうして有香が自分のデータを持っているのか。
 それよりも太一を混乱させたのは、もう一つのことだった。
 動揺する太一を見た有香は、スマホ画面を自分に向ける。
「昨日、知らない人からいきなりデータが送られてきて。とりあえず中身見たら、月岡の情報が載ってたから。間違いないか聞きたいわけ」
 有香の言葉に太一はゆっくりと首を縦に振る。太一は認めるしかなかった。有香が見せてきた画像データが、ポータルサイトの情報と完全に一致していたのだから。
 太一の反応を受け、クラス内が突然騒がしくなった。周囲の皆が一斉に太一のことを話題に話し始める。
 動揺を隠せない太一に、有香は追い打ちをかけるように問いかけた。
「月岡のボンドっていわゆるゼロ型って奴だよね? 誰とも結びつくことがないって言われてるボンド」
 太一のボンド検査の結果は〇―〇、ゼロ型と言われるボンドだった。
 ゼロ型について星野教授は、人類には当てはまらないボンドだと言っている。実際に今まで行ってきたボンド検査で、ゼロ型の人間は見つかっていない。
 絶対に見つからないボンド。そう言われることから、ゼロ型は幻のボンドと言われている。それに太一は該当していたのだ。
「おい、まじかよ月岡」
「ゼロ型って……」
 クラスメイトが次々と話かけてくる。太一は俯いたまま何も答えることができなかった。
 そんな太一を見つめていた有香は早口で告げる。
「言っとくけど、知らない人から連絡が来ただけで、私じゃないから」
 有香は言い終えると、そのまま自分の席に戻っていった。周囲には有香といつも一緒にいる成瀬(なるせ)宮井(みやい)がいた。三人は笑顔で会話を交わしている。
まるで自分が笑われているような錯覚を太一は覚えた。
「大丈夫か、太一」
「手塚……」
 太一の様子を心配した手塚が話しかけてきた。
「まさかお前がゼロ型とはな」
「……うるさい」