△△△△△
森川先生と話してから一週間が経った。太一はこの一週間、学校帰りに紗雪の家を毎日訪れていた。しかし紗雪は、一度も家から出てきてはくれなかった。
どうにかして紗雪と話したい。太一は電話をしたり、メッセージを送ったり、あらゆる手を使って紗雪と話そうと試みた。だけど紗雪が返答してくれることは一度もなかった。
紗雪のいない学校生活を続けて、既に二週間。その間、太一は元の学校生活を取り戻していた。太一のことをゼロ型だと揶揄する生徒はいなくなり、静かな日々を過ごす毎日。今まで当たり前だった空間。それを取り戻したはずなのに、太一の心は満たされていなかった。どこかに大きな穴が開いていて、そこから活力が一気に放出される感覚。太一の日常に無くてはならない決定的な何かが欠け落ちていた。
そんな日々を過ごしていた時、久しぶりに柊に声をかけられた。
「今日のお昼、屋上に来てほしいの。大事な話があるから」
突然の呼び出しに、太一は躊躇いを隠せなかった。一度振られた女子から、呼び出される経験なんてしたことがなかったから。それでも太一は柊の申し出を受け入れ、屋上に向かった。
屋上に着くと、柊は既に来ていた。転落防止の柵に腕を乗せ、街並みを眺めている。時折吹く強い風が、柊の亜麻色の髪をなびかせていた。
太一が来たことに気づいた柊は笑みをみせた。
「来てくれてありがとう」
「うん。それより話したいことって?」
柊は柵から身を起こして太一と向き合った。
「月岡君と、もう一度やり直したいと思って」
「えっ」
太一は思わず目を見開いた。柊は太一に一歩詰め寄ると、しっかりと太一を見つめてくる。
「あの日、月岡君と別れた日。自分の夢を叶える為に必要な選択をしたと思ってた。練習もいつも通り集中して取り組めてたし、私は選択を間違っていなかったんだって。だけど日が経つたびに胸が苦しくなって。練習に身が入らなくなったの。理由は直ぐにわかった。月岡君が、直ぐに森川さんと付き合い始めたから」
柊は笑顔を見せると、腕を組みかえた。先程まで強く吹いていた風は、いつの間にか穏やかになっている。
「おかしいよね。私から月岡君を振ったのに。でも、これではっきりした。私は月岡君のことが本当に好きだったんだって」
柊はさらに太一の方に一歩詰め寄る。
「虫のいい話だってことはわかってる。だけど、自分の気持ちには嘘をつけないなって。このままもやもやしたままでいると、本当に練習に集中できなくなっちゃうから。だから今日、はっきりさせようと思って月岡君を呼んだの」
柊は小さく息を漏らすと、太一に向け言葉を放った。
「月岡君が好きです。また私を支えてください」
頭を下げる柊に、太一は何て答えればよいのかわからなかった。振られた相手からの突然の告白。予想の斜め上を行く出来事に、太一は気持ちの整理ができずにいた。
太一は一度深呼吸をした。そして改めて自分に問いただす。
柊に対する気持ちは今も消えていない。それが太一の本心だった。好きって気持ちを抱いているのは事実。一年も柊のことを思い続けていたのだから。そう簡単に好きな人を変えられるわけがなかった。
「お、俺は――」
森川先生と話してから一週間が経った。太一はこの一週間、学校帰りに紗雪の家を毎日訪れていた。しかし紗雪は、一度も家から出てきてはくれなかった。
どうにかして紗雪と話したい。太一は電話をしたり、メッセージを送ったり、あらゆる手を使って紗雪と話そうと試みた。だけど紗雪が返答してくれることは一度もなかった。
紗雪のいない学校生活を続けて、既に二週間。その間、太一は元の学校生活を取り戻していた。太一のことをゼロ型だと揶揄する生徒はいなくなり、静かな日々を過ごす毎日。今まで当たり前だった空間。それを取り戻したはずなのに、太一の心は満たされていなかった。どこかに大きな穴が開いていて、そこから活力が一気に放出される感覚。太一の日常に無くてはならない決定的な何かが欠け落ちていた。
そんな日々を過ごしていた時、久しぶりに柊に声をかけられた。
「今日のお昼、屋上に来てほしいの。大事な話があるから」
突然の呼び出しに、太一は躊躇いを隠せなかった。一度振られた女子から、呼び出される経験なんてしたことがなかったから。それでも太一は柊の申し出を受け入れ、屋上に向かった。
屋上に着くと、柊は既に来ていた。転落防止の柵に腕を乗せ、街並みを眺めている。時折吹く強い風が、柊の亜麻色の髪をなびかせていた。
太一が来たことに気づいた柊は笑みをみせた。
「来てくれてありがとう」
「うん。それより話したいことって?」
柊は柵から身を起こして太一と向き合った。
「月岡君と、もう一度やり直したいと思って」
「えっ」
太一は思わず目を見開いた。柊は太一に一歩詰め寄ると、しっかりと太一を見つめてくる。
「あの日、月岡君と別れた日。自分の夢を叶える為に必要な選択をしたと思ってた。練習もいつも通り集中して取り組めてたし、私は選択を間違っていなかったんだって。だけど日が経つたびに胸が苦しくなって。練習に身が入らなくなったの。理由は直ぐにわかった。月岡君が、直ぐに森川さんと付き合い始めたから」
柊は笑顔を見せると、腕を組みかえた。先程まで強く吹いていた風は、いつの間にか穏やかになっている。
「おかしいよね。私から月岡君を振ったのに。でも、これではっきりした。私は月岡君のことが本当に好きだったんだって」
柊はさらに太一の方に一歩詰め寄る。
「虫のいい話だってことはわかってる。だけど、自分の気持ちには嘘をつけないなって。このままもやもやしたままでいると、本当に練習に集中できなくなっちゃうから。だから今日、はっきりさせようと思って月岡君を呼んだの」
柊は小さく息を漏らすと、太一に向け言葉を放った。
「月岡君が好きです。また私を支えてください」
頭を下げる柊に、太一は何て答えればよいのかわからなかった。振られた相手からの突然の告白。予想の斜め上を行く出来事に、太一は気持ちの整理ができずにいた。
太一は一度深呼吸をした。そして改めて自分に問いただす。
柊に対する気持ちは今も消えていない。それが太一の本心だった。好きって気持ちを抱いているのは事実。一年も柊のことを思い続けていたのだから。そう簡単に好きな人を変えられるわけがなかった。
「お、俺は――」