全てが順調だった。時間帯を変えただけで、ここまで上手くいくとは紗雪自身思っていなかった。このまま行くことができれば、また学校に通えるようになるかもしれない。そんな淡い気持ちを抱きつつ、紗雪は歩を進めていった。
暫く歩くと右手に夏月の家と太一の家が見えてきた。数週間前まで、毎朝家まで太一を迎えに行った。その事実がとても懐かしく感じた。
でも、そんな日々を送ることはもうできない。太一とはもう話すことすらできないのだ。自分の目的を果たす為に太一を利用した。そんな身勝手な自分の行為を、太一が許してくれるはずがない。
太一のことを意識した瞬間、胸が苦しくなった。その苦しみから逃れるように、紗雪は太一の家の前を早足で通りすぎる。今は学校に通うことを考えようと気持ちを切り替えた。
学校に誰もいないという安心感は、紗雪の目標を達成するには十分だった。視野がぼやけたり吐き気に襲われたりすることなく、紗雪は無事に学校に辿り着けた。紗雪は迷わず空き教室に向かう。紗雪と太一以外の人が入ることができない場所。まずはこの場所で気持ちの整理をつけようと思った。
空き教室に着いた紗雪は鍵を開けて中へと入る。カーテンが開いていたお蔭で、街灯の光や月の光が真っ暗な室内を微かに照らしていた。紗雪の視界に二脚の机と椅子が入る。数週間前と変わらない光景に、紗雪はほっと息を吐いた。
ドアを閉め、鍵をかけた紗雪はいつも自分が座っていた席に腰を下ろす。そして微かに見える掛け時計に視線を向けた。時刻は九時を過ぎたばかり。施錠担当の先生が見回りを終える時間になっていた。紗雪は机に突っ伏してゆっくりと目を閉じた。頬にひんやりとした感触が広がり、徐々に緊張がほぐれていく。
こうして学校に来ることができた。だから教室に行っても普通に過ごせるはず。
紗雪は身体を起こして腰を上げた。そして空き教室を後にする。
夜の廊下は本当に神秘的な空間に思えた。窓から微かに差し込む月明かりが、紗雪を教室まで導いてくれる。まるで月に守られているのではないかと、紗雪自身錯覚するほどだった。
連絡通路を抜け、ようやく紗雪は教室前に着いた。ドアに手をかけた紗雪は、深呼吸をする。
「大丈夫。大丈夫」
何度もおまじないのように呟いた紗雪は、ゆっくりと教室のドアを開けた。
――私のお父さん、森川雅樹って名前なんだ。
暫く歩くと右手に夏月の家と太一の家が見えてきた。数週間前まで、毎朝家まで太一を迎えに行った。その事実がとても懐かしく感じた。
でも、そんな日々を送ることはもうできない。太一とはもう話すことすらできないのだ。自分の目的を果たす為に太一を利用した。そんな身勝手な自分の行為を、太一が許してくれるはずがない。
太一のことを意識した瞬間、胸が苦しくなった。その苦しみから逃れるように、紗雪は太一の家の前を早足で通りすぎる。今は学校に通うことを考えようと気持ちを切り替えた。
学校に誰もいないという安心感は、紗雪の目標を達成するには十分だった。視野がぼやけたり吐き気に襲われたりすることなく、紗雪は無事に学校に辿り着けた。紗雪は迷わず空き教室に向かう。紗雪と太一以外の人が入ることができない場所。まずはこの場所で気持ちの整理をつけようと思った。
空き教室に着いた紗雪は鍵を開けて中へと入る。カーテンが開いていたお蔭で、街灯の光や月の光が真っ暗な室内を微かに照らしていた。紗雪の視界に二脚の机と椅子が入る。数週間前と変わらない光景に、紗雪はほっと息を吐いた。
ドアを閉め、鍵をかけた紗雪はいつも自分が座っていた席に腰を下ろす。そして微かに見える掛け時計に視線を向けた。時刻は九時を過ぎたばかり。施錠担当の先生が見回りを終える時間になっていた。紗雪は机に突っ伏してゆっくりと目を閉じた。頬にひんやりとした感触が広がり、徐々に緊張がほぐれていく。
こうして学校に来ることができた。だから教室に行っても普通に過ごせるはず。
紗雪は身体を起こして腰を上げた。そして空き教室を後にする。
夜の廊下は本当に神秘的な空間に思えた。窓から微かに差し込む月明かりが、紗雪を教室まで導いてくれる。まるで月に守られているのではないかと、紗雪自身錯覚するほどだった。
連絡通路を抜け、ようやく紗雪は教室前に着いた。ドアに手をかけた紗雪は、深呼吸をする。
「大丈夫。大丈夫」
何度もおまじないのように呟いた紗雪は、ゆっくりと教室のドアを開けた。
――私のお父さん、森川雅樹って名前なんだ。