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森川雅樹がボンドの研究を始めたのは、星野教授との出会いがすべてだった。
二〇三一年。雅樹の地元で星野教授が講演会を開いたことがあった。その講演会で雅樹は初めて星野教授と出会う。同年代で未知の研究に取り組んでいる、素晴らしい人。以前から雅樹は、星野教授の研究に取り組む姿勢に尊敬の念を抱いていた。
そんな雅樹と対面した星野教授は、雅樹に驚きの提案をしてきた。
「一緒にボンドの謎を解明しましょう。森川先生の力が必要です」
どうして自分が誘われたのか。雅樹はその真意がわからなかったが、尊敬する星野教授に必要とされている嬉しさもあり、星野教授の研究に力を貸すことになった。
雅樹が任されたのは、ボンドの試薬作り。星野教授の論文で曖昧となっている部分だ。
星野教授は学会でボンドは存在すると言ったが、ボンドの違いやボンドが何を示すのかといった、具体的な内容について発表できていなかった。それこそボンドが認められない一番のボトルネックであった。
そのため、ボンドの違いを示す試薬開発に協力してほしいと雅樹は星野教授に言われた。
当時の雅樹は地元で診療所を開いていた。そのためボンドの仕事ができるのは、上京できる週末のみ。雅樹は休日を返上してとにかく働いた。平日は診療所での仕事をこなしつつ、週末になると上京してボンドの試薬作りに勤しむ日々。そんな上京を繰り返す生活をしていた時、雅樹は研究仲間の紹介で有香の母親と出会った。最初は友人と一緒に食事をするだけの関係だったが、次第に二人で会うようになり、いつしか雅樹と有香の母親の関係は恋愛へと発展していった。そして出会ってから二年後の二〇三三年。雅樹は有香の母親と結婚した。
雅樹は地元に診療所があった。有香の母親は会社勤めのOLで、互いに仕事が生きがいだった。そのため婚姻届けを出した後も、会うのは週末だけ。いつの間にか、有香の母親と会うのは、ボンドの仕事で雅樹が上京した時だけと決まっていた。もはや別居状態で、傍から見ると結婚をしているとは思えない関係。そんな関係を続けていたのがいけなかったのかもしれない。
結婚した次の週に診療所を訪れた女性に、雅樹は心を鷲掴みにされる。
一目惚れだった。雅樹自身、その美しさに患者ということを忘れてしまうくらい。それくらい魅力的な女性。それが紗雪の母親だった。
紗雪の母親は足の怪我を治療するために診療所を訪れていた。当然、紗雪の母親は治療のために診療所に来ただけ。それくらい雅樹もわかっているつもりだった。それに雅樹はいくら気持ちが動いたからと言って、患者に近づくわけにはいかなかった。患者の病を治すのが仕事なのだから。それに自分には妻がいる。そう思うことで、雅樹は理性を保っていた。
紗雪の母親は軽傷だったので、診療所には二回しか来なかった。治療を終えた紗雪の母親を見送った雅樹も、これで気持ちの踏ん切りがつくと思っていた。
しかし数日後。買い物に出た先で、奇跡的に紗雪の母親と再会を果たす。
雅樹自身、この再会は運命かと思った。もう会うことはないと思っていた相手が、目の前に現れたのだから。自分の立場など考えもせず、雅樹は真っ先に話かけた。紗雪の母親も覚えてくれていたみたいで、雅樹の顔を見ると笑みを見せてくれた。
それから雅樹と紗雪の母親は、頻繁に会うようになった。仕事終わりに毎日食事に連れて行き、親交を深めていった。
森川雅樹がボンドの研究を始めたのは、星野教授との出会いがすべてだった。
二〇三一年。雅樹の地元で星野教授が講演会を開いたことがあった。その講演会で雅樹は初めて星野教授と出会う。同年代で未知の研究に取り組んでいる、素晴らしい人。以前から雅樹は、星野教授の研究に取り組む姿勢に尊敬の念を抱いていた。
そんな雅樹と対面した星野教授は、雅樹に驚きの提案をしてきた。
「一緒にボンドの謎を解明しましょう。森川先生の力が必要です」
どうして自分が誘われたのか。雅樹はその真意がわからなかったが、尊敬する星野教授に必要とされている嬉しさもあり、星野教授の研究に力を貸すことになった。
雅樹が任されたのは、ボンドの試薬作り。星野教授の論文で曖昧となっている部分だ。
星野教授は学会でボンドは存在すると言ったが、ボンドの違いやボンドが何を示すのかといった、具体的な内容について発表できていなかった。それこそボンドが認められない一番のボトルネックであった。
そのため、ボンドの違いを示す試薬開発に協力してほしいと雅樹は星野教授に言われた。
当時の雅樹は地元で診療所を開いていた。そのためボンドの仕事ができるのは、上京できる週末のみ。雅樹は休日を返上してとにかく働いた。平日は診療所での仕事をこなしつつ、週末になると上京してボンドの試薬作りに勤しむ日々。そんな上京を繰り返す生活をしていた時、雅樹は研究仲間の紹介で有香の母親と出会った。最初は友人と一緒に食事をするだけの関係だったが、次第に二人で会うようになり、いつしか雅樹と有香の母親の関係は恋愛へと発展していった。そして出会ってから二年後の二〇三三年。雅樹は有香の母親と結婚した。
雅樹は地元に診療所があった。有香の母親は会社勤めのOLで、互いに仕事が生きがいだった。そのため婚姻届けを出した後も、会うのは週末だけ。いつの間にか、有香の母親と会うのは、ボンドの仕事で雅樹が上京した時だけと決まっていた。もはや別居状態で、傍から見ると結婚をしているとは思えない関係。そんな関係を続けていたのがいけなかったのかもしれない。
結婚した次の週に診療所を訪れた女性に、雅樹は心を鷲掴みにされる。
一目惚れだった。雅樹自身、その美しさに患者ということを忘れてしまうくらい。それくらい魅力的な女性。それが紗雪の母親だった。
紗雪の母親は足の怪我を治療するために診療所を訪れていた。当然、紗雪の母親は治療のために診療所に来ただけ。それくらい雅樹もわかっているつもりだった。それに雅樹はいくら気持ちが動いたからと言って、患者に近づくわけにはいかなかった。患者の病を治すのが仕事なのだから。それに自分には妻がいる。そう思うことで、雅樹は理性を保っていた。
紗雪の母親は軽傷だったので、診療所には二回しか来なかった。治療を終えた紗雪の母親を見送った雅樹も、これで気持ちの踏ん切りがつくと思っていた。
しかし数日後。買い物に出た先で、奇跡的に紗雪の母親と再会を果たす。
雅樹自身、この再会は運命かと思った。もう会うことはないと思っていた相手が、目の前に現れたのだから。自分の立場など考えもせず、雅樹は真っ先に話かけた。紗雪の母親も覚えてくれていたみたいで、雅樹の顔を見ると笑みを見せてくれた。
それから雅樹と紗雪の母親は、頻繁に会うようになった。仕事終わりに毎日食事に連れて行き、親交を深めていった。