「太一君……」
森川先生が口を挟んできた。もう言わなくてもわかる。そんな目をしていた。
「私がいけなかった。紗雪がこんなになってしまったのも……」
顔を手で覆い、自らの過ちを悔いるかのように森川先生はうなだれた。
「教えてください。森川さん」
太一は聞きださないといけないと思った。自らを犠牲にしてまでも、紗雪はボンドを否定しようとした。そんな紗雪に何があったのか。
「紗雪は小学生の頃から、いじめに遭っていたんだ」
「いじめ……」
森川先生の発言に、太一は思わず息を呑む。
信じられなかった。頭が良くて、どんな時でも冷静で、自分の意見を言える紗雪をずっと見てきた。そんな強い意志の塊である紗雪に、いじめられていた過去があったなんて。
言葉を失う太一に、森川先生はゆっくりと口を開いた。
「紗雪が小学三年生の頃。母親が同級生の母親を殺してしまった。それから紗雪は友達ができずに、ずっと学校でいじめに遭っていた。でも中学校に上がる頃には、そのいじめは少なくなっていたと聞いていた。だから私も安心していたんだ。でも、紗雪が中学二年生の頃。母親が刑務所内で自殺した。それを境に、紗雪は完全に心を閉ざしてしまったんだ」
森川先生の言葉に、太一はどう答えるべきなのかわからなかった。いつも一人でいる印象が強かった紗雪。一人でいるのは、単純に一人が好きだからだと太一はずっと思っていた。
だけどそれは違った。紗雪は小さい頃に受けた傷のせいで、一人でなくてはいけない体質にならざるを得なかったのだ。
「森川さんは……紗雪に何て声をかけてたんですか。いじめられていた紗雪に」
太一の問いかけに、森川先生は俯いたまま口を開こうとしない。
「まさか……何もしてあげなかったんですか」
太一は思わず声を荒げてしまった。いくら自分が子供でも紗雪と同じ状況に陥ったら、絶対に耐えられない。そう強く思う気持ちがあるからこそ、必然的に大声になった。
「……私がいけなかった。当時は仕事ばかり考えていて、紗雪のことは何一つ考えていなかった。紗雪は一人でも大丈夫。そう勝手に思い込んでいたんだ」
紗雪がボンドを嫌う理由がようやくわかった気がした。森川先生はずっと仕事のことしか考えていなかった。仕事を最優先にして、家庭のことなど二の次。そんな状況下で紗雪は大切な母親を失ったのだ。ボンドを否定したいと思う紗雪の気持ちが、痛いほどわかる気がした。
「紗雪と向き合ってください。お願いします」
太一は森川先生に頭を下げた。不登校になった紗雪を取り戻すには、森川先生と向き合うことが絶対に必要だと思ったから。
「……紗雪はもう私と向き合ってくれない」
「どうしてですか?」
太一の問いに、森川先生は俯きながら答えた。
森川先生が口を挟んできた。もう言わなくてもわかる。そんな目をしていた。
「私がいけなかった。紗雪がこんなになってしまったのも……」
顔を手で覆い、自らの過ちを悔いるかのように森川先生はうなだれた。
「教えてください。森川さん」
太一は聞きださないといけないと思った。自らを犠牲にしてまでも、紗雪はボンドを否定しようとした。そんな紗雪に何があったのか。
「紗雪は小学生の頃から、いじめに遭っていたんだ」
「いじめ……」
森川先生の発言に、太一は思わず息を呑む。
信じられなかった。頭が良くて、どんな時でも冷静で、自分の意見を言える紗雪をずっと見てきた。そんな強い意志の塊である紗雪に、いじめられていた過去があったなんて。
言葉を失う太一に、森川先生はゆっくりと口を開いた。
「紗雪が小学三年生の頃。母親が同級生の母親を殺してしまった。それから紗雪は友達ができずに、ずっと学校でいじめに遭っていた。でも中学校に上がる頃には、そのいじめは少なくなっていたと聞いていた。だから私も安心していたんだ。でも、紗雪が中学二年生の頃。母親が刑務所内で自殺した。それを境に、紗雪は完全に心を閉ざしてしまったんだ」
森川先生の言葉に、太一はどう答えるべきなのかわからなかった。いつも一人でいる印象が強かった紗雪。一人でいるのは、単純に一人が好きだからだと太一はずっと思っていた。
だけどそれは違った。紗雪は小さい頃に受けた傷のせいで、一人でなくてはいけない体質にならざるを得なかったのだ。
「森川さんは……紗雪に何て声をかけてたんですか。いじめられていた紗雪に」
太一の問いかけに、森川先生は俯いたまま口を開こうとしない。
「まさか……何もしてあげなかったんですか」
太一は思わず声を荒げてしまった。いくら自分が子供でも紗雪と同じ状況に陥ったら、絶対に耐えられない。そう強く思う気持ちがあるからこそ、必然的に大声になった。
「……私がいけなかった。当時は仕事ばかり考えていて、紗雪のことは何一つ考えていなかった。紗雪は一人でも大丈夫。そう勝手に思い込んでいたんだ」
紗雪がボンドを嫌う理由がようやくわかった気がした。森川先生はずっと仕事のことしか考えていなかった。仕事を最優先にして、家庭のことなど二の次。そんな状況下で紗雪は大切な母親を失ったのだ。ボンドを否定したいと思う紗雪の気持ちが、痛いほどわかる気がした。
「紗雪と向き合ってください。お願いします」
太一は森川先生に頭を下げた。不登校になった紗雪を取り戻すには、森川先生と向き合うことが絶対に必要だと思ったから。
「……紗雪はもう私と向き合ってくれない」
「どうしてですか?」
太一の問いに、森川先生は俯きながら答えた。