「そうだな。俺も理解できない。だからこうして一緒に帰ってるわけだし」
「だよな。手塚ならそう言ってくれると思った」
 期待していた言葉が返ってきて、太一は安堵する。
「そもそもボンドって、将来結婚する相手との相性の良さを知るための指標とも言われてるだろ? そう考えると結婚って俺達にとってまだ遠い話な気がする。だから教室でぺらぺらと自分のボンドを話す奴らは、将来について真剣に考えてないんじゃないか?」
 まだ自分には関係ない。手塚の言う通り、ボンドを面白がっている高校生は実際に多いのかもしれない。
「それで、結局手塚のボンドはどうだったんだ?」
「……水素型だった」
「水素型って……男子の中で一番モテるボンドじゃん」
 水素型。1―1。異性の誰とでも結びつくことができるボンドだ。
「俺も結果を見て自分の目を疑った。浮いた話なんてこれっぽっちもない俺が水素型。ありえないって」
 手塚は苦笑すると、歩みを止めて太一に視線を向けた。
「太一に聞きたいことがあるんだ」
「何?」
「公開されているボンドの情報以外で、何か知ってることってあるか?」
 真剣な表情で問いかけてくる手塚に、太一は首を横に振った。
「知らない……そもそもボンドなんて嫌いだし」
「嫌いなのは知ってる。だからこそ太一は色々と自分でも調べてるんだろ?」
 手塚の指摘に太一は思わず顔をそらした。
 太一はボンドが嫌いだった。もしボンドで恋愛の全てが決まってしまうのなら、今まで自分が女子に対して抱いた気持ちが、全て偽りの感情だと言われてる気がしてならないから。
「それに太一は星野と家族ぐるみの付き合いをしてるんだろ? 当然、星野のお父さんとも付き合いがあるはずだし、特別に教えてもらってるとかあるんじゃないか」
 夏月のお父さんは、ボンドを発見した星野教授。手塚の言う通り、太一は星野教授と小さい頃から交流があった。何か知っていると手塚が勘ぐるのも無理はない。
「特別なことは、何も教えてもらってないよ」
 太一ははっきりと手塚に告げた。実際に星野教授から、ボンドに関する話を聞いたことなど一度もなかった。
「そっか……そうだよな。いくら家族ぐるみの付き合いをしてるからって、教えてもらえるわけないよな」
 大きくため息を吐いた手塚は肩を落とす。そんな手塚の肩を太一は軽く叩いた。