その嬉しさも束の間、母が働き始めて三ヶ月が経ったある日。唐突に事件が起きた。
母が久美の母親を殺したのだ。
最初は何が起こったのか理解できなかった。ただ、大好きだった母が人を殺した。その事実だけがずっと紗雪の脳内を徘徊し続けていた。
そんな紗雪の運命は、翌日から大きく変わった。
学校に登校した紗雪はいつもと違った変化に気づく。教室に入った瞬間、皆が話すのをやめて紗雪から一斉に視線をそらした。いつもなら挨拶を交わすはずなのに、誰も話しかけてこない。そんな不気味な雰囲気が続いた数日後に、久しぶりに久美が登校してきた。
紗雪は久美を見つけると、真っ先に声をかけた。
「久美ちゃん、おはよう」
いつもと同じように接したつもりだった。紗雪にとって一番の親友。久美ならいつものように声をかけてくれる。そんな悠長な考えを持っていたのが、いけなかったのかもしれない。久美が紗雪に向けて、とんでもない言葉を言い放った。
「人殺し。私のお母さんを返して」
強い口調で紗雪に告げた久美はそのまま紗雪を押し倒して、これでもかというくらい紗雪に拳を振り下ろした。
豹変した久美の拳を、紗雪はただ受け止めることしかできなかった。久美の言っていることは紛れもない事実。母は紗雪の大切な友達に、取り返しのつかないことをしてしまったのだから。
身体も心も傷ついた紗雪は、家に帰ってからとにかく泣いた。そして再度考えさせられた。
どうして優しかった母が人を殺してしまったのか。
どうしてこんな目に合わないといけないのか。
家に帰ればいつも笑顔で出迎えてくれた母は、今やどこにもいない。母は殺人罪として懲役十年を言い渡された。だからずっと刑務所の中。いつも母の温もりがあった家が、紗雪一人の空間になってしまった。父は仕事が忙しくて、いつも家に帰ってこない。週末はボンドの話し合いで上京してしまう。
これから家ではずっと一人なんだ。そう思った瞬間、久美の顔が紗雪の脳裏をよぎった。そして紗雪は気づく。
もう久美のことは親友と呼べない。家だけでなく、学校でも一人なんだと。
その事実がすべてだった。紗雪はその日、疲れ果てて寝るまで涙が止まらなかった。
母が家からいなくなって以降、登校するたびに紗雪の心は擦り減っていった。
人殺し。
母が久美の母親を殺したのだ。
最初は何が起こったのか理解できなかった。ただ、大好きだった母が人を殺した。その事実だけがずっと紗雪の脳内を徘徊し続けていた。
そんな紗雪の運命は、翌日から大きく変わった。
学校に登校した紗雪はいつもと違った変化に気づく。教室に入った瞬間、皆が話すのをやめて紗雪から一斉に視線をそらした。いつもなら挨拶を交わすはずなのに、誰も話しかけてこない。そんな不気味な雰囲気が続いた数日後に、久しぶりに久美が登校してきた。
紗雪は久美を見つけると、真っ先に声をかけた。
「久美ちゃん、おはよう」
いつもと同じように接したつもりだった。紗雪にとって一番の親友。久美ならいつものように声をかけてくれる。そんな悠長な考えを持っていたのが、いけなかったのかもしれない。久美が紗雪に向けて、とんでもない言葉を言い放った。
「人殺し。私のお母さんを返して」
強い口調で紗雪に告げた久美はそのまま紗雪を押し倒して、これでもかというくらい紗雪に拳を振り下ろした。
豹変した久美の拳を、紗雪はただ受け止めることしかできなかった。久美の言っていることは紛れもない事実。母は紗雪の大切な友達に、取り返しのつかないことをしてしまったのだから。
身体も心も傷ついた紗雪は、家に帰ってからとにかく泣いた。そして再度考えさせられた。
どうして優しかった母が人を殺してしまったのか。
どうしてこんな目に合わないといけないのか。
家に帰ればいつも笑顔で出迎えてくれた母は、今やどこにもいない。母は殺人罪として懲役十年を言い渡された。だからずっと刑務所の中。いつも母の温もりがあった家が、紗雪一人の空間になってしまった。父は仕事が忙しくて、いつも家に帰ってこない。週末はボンドの話し合いで上京してしまう。
これから家ではずっと一人なんだ。そう思った瞬間、久美の顔が紗雪の脳裏をよぎった。そして紗雪は気づく。
もう久美のことは親友と呼べない。家だけでなく、学校でも一人なんだと。
その事実がすべてだった。紗雪はその日、疲れ果てて寝るまで涙が止まらなかった。
母が家からいなくなって以降、登校するたびに紗雪の心は擦り減っていった。
人殺し。