だからこそ太一は柊に対する気持ちが本物かどうか確かめる為に、一年間自分の気持ちと向き合った。そして今日、変わらない思いを柊に打ち明け、初めての彼女ができた。
 そんな経緯があるからこそ、太一は少なからず夏月に感謝している。
「星野。高野先生が職員室に早く来いって」
 帰り支度を終えた手塚が、二人の元へとやってきた。
「あっ、いけない。早く行かないと。ありがとう、手塚」
手に持っていたスクールバッグを肩にかけた夏月は、足早に教室を後にした。
「相変わらず慌ただしいな、星野は」
 手塚がぽつりと呟いた。その呟きに太一も同意の意味を込めて頷く。
「そういえば太一はボンドの結果、見たのか?」
「いや、見てない。俺にはボンドの情報なんて必要ないし」
「そっか。まあ太一がそう思うのは良いけど、柊さんは考えが違うかもな」
 手塚の指摘に胸騒ぎがした。柊は少なくともボンドに関心を持っている。屋上でボンドについて言っていたのだ。いくら太一がボンドに興味がなくても、いずれ柊も太一のボンドを聞いてくるかもしれない。
「そ、それより手塚のボンドはどうだった?」
「俺か?」
「聞いてきたってことは、結果見たんだろ」
「まあな。とりあえず、帰りながら話すわ」
 手塚の意見に同意し、太一達は教室を後にした。

 帰り道。太一は手塚と共に通学路を歩いて行く。家が学校の近所にある太一と手塚は、徒歩通学組だった。高校生にもなると、電車通学組が格段に増える。義務教育を外れ、自ら好きな学校を選べるのだから当然かもしれない。それでも太一と手塚、それに夏月を加えた三人は同じ高校に進んだ。別に約束をしていたわけではない。それでも三人とも同じ高校に進むのは、何かしらのつながりがあったのかもしれない。そうでなければ、小学校からずっと同じ学び舎で育つなんて、太一には考えられなかった。
「それにしても、今日は少し冷えるな」
 手塚はズボンに手を突っ込んでいた。四月を迎え、過ごしやすい季節になったのにも関わらず、たまに吹く冷たい風が冬の名残を感じさせる。
「なあ、手塚」
「ん?」
「教室でみんながボンドについて話してたけど、俺にはやっぱり理解できない。そう思わないか?」
 高野先生の忠告を無視して、自分のボンドを平気な顔して打ち明ける。個人情報をいとも簡単に口にする同級生に、太一はどうしても同意できなかった。