付き合うふりをする。元々は紗雪が持ちかけてきた話だ。それなのに、本当に付き合ってしまっては意味がない。太一は胸に手を当てて大きく深呼吸をした。自分の弱さに付け込んでくる紗雪が、少しだけ憎らしく思えた。
「そうね。お互いの為……ね」
紗雪はそのまま箸を持つと、重箱に入っていたから揚げを口に運んだ。パリッととした食感の良さそうな音が空き教室に響く。
「あのさ、もう一つだけ森川に聞きたいことが」
口にから揚げを含んでいた紗雪に太一は聞く。
「俺って森川に何かしてあげられてるのかな?」
常に思っていたことだった。紗雪と偽りの関係を始めて、太一は未だに何もしてあげられていなかった。ただ紗雪と付き合っているだけ。それなのに太一は紗雪から安心をもらっている。
だからなのかもしれない。どこか腑に落ちない感情が太一の中で湧き上がっていた。
「十分してもらってるわ。あなたにはこうして私に付き合ってもらってるもの。それだけで十分だから」
太一の思っていることは杞憂だった。紗雪は太一の不安など気にせずに前を見ている。紗雪が一緒にいるだけで良いと言うなら、特に何もする必要がないのかもしれない。
「そのかわり」
紗雪が太一の方に身体を向けた。紗雪の覗き込むような視線に太一は釘付けになる。
「私のことは紗雪って呼んで。その方が彼女らしいでしょ」
紗雪の言葉に太一は首を縦に振っていた。
翌日。珍しく紗雪からメッセージが来た。起きたばかりだった太一は視界に飛び込んできた文章を見た瞬間、一気に眠気が吹き飛んだ。
『今日は一緒に登校できない』
淡々と書かれた文章に、太一は不安を抱かずにはいられなかった。あれだけボンドを否定したいと言っていた紗雪が、一緒に登校するのを拒否することが信じられなかった。昨日もいつも通り、放課後は空き教室で紗雪と二人で過ごした。特に変わった様子は見られなかった。それだけに紗雪の変化が気になって仕方がない。
太一は急いで学校へと向かった。とにかく直接会って話をしたかった。紗雪の考えていることを、今度こそはっきりさせないといけない。
教室前に着くと、目の前には意外な光景が広がっていた。他クラスの生徒が教室を覗いている。一人や二人なら気にならないけど、その人数の多さが太一を不安にさせた。
「ちょっと、ごめん」
「そうね。お互いの為……ね」
紗雪はそのまま箸を持つと、重箱に入っていたから揚げを口に運んだ。パリッととした食感の良さそうな音が空き教室に響く。
「あのさ、もう一つだけ森川に聞きたいことが」
口にから揚げを含んでいた紗雪に太一は聞く。
「俺って森川に何かしてあげられてるのかな?」
常に思っていたことだった。紗雪と偽りの関係を始めて、太一は未だに何もしてあげられていなかった。ただ紗雪と付き合っているだけ。それなのに太一は紗雪から安心をもらっている。
だからなのかもしれない。どこか腑に落ちない感情が太一の中で湧き上がっていた。
「十分してもらってるわ。あなたにはこうして私に付き合ってもらってるもの。それだけで十分だから」
太一の思っていることは杞憂だった。紗雪は太一の不安など気にせずに前を見ている。紗雪が一緒にいるだけで良いと言うなら、特に何もする必要がないのかもしれない。
「そのかわり」
紗雪が太一の方に身体を向けた。紗雪の覗き込むような視線に太一は釘付けになる。
「私のことは紗雪って呼んで。その方が彼女らしいでしょ」
紗雪の言葉に太一は首を縦に振っていた。
翌日。珍しく紗雪からメッセージが来た。起きたばかりだった太一は視界に飛び込んできた文章を見た瞬間、一気に眠気が吹き飛んだ。
『今日は一緒に登校できない』
淡々と書かれた文章に、太一は不安を抱かずにはいられなかった。あれだけボンドを否定したいと言っていた紗雪が、一緒に登校するのを拒否することが信じられなかった。昨日もいつも通り、放課後は空き教室で紗雪と二人で過ごした。特に変わった様子は見られなかった。それだけに紗雪の変化が気になって仕方がない。
太一は急いで学校へと向かった。とにかく直接会って話をしたかった。紗雪の考えていることを、今度こそはっきりさせないといけない。
教室前に着くと、目の前には意外な光景が広がっていた。他クラスの生徒が教室を覗いている。一人や二人なら気にならないけど、その人数の多さが太一を不安にさせた。
「ちょっと、ごめん」