タイミングよくスマホが震え、メッセージが来たことを太一に知らせる。相手はもちろん柊から。太一は意気揚々とスマホを操作して、メッセージを確認する。
 しかし柊からの返信は、太一の期待を打ち崩す内容だった。
「そんな……今日は一緒に帰れないって」
「ほら。やっぱり騙されてる」
「だから騙されてないって。ほら、見てみろよ。ちゃんと部活のミーティングで遅くなるから、先に帰ってほしいって書いてあるだろ」
 太一はスマホの画面を夏月に見せた。
 夏月は画面に視線を向けたまま、暫くの間見入っていた。何か変な文章でもあっただろうか。太一はスマホの画面を自分に向け、柊からのメッセージを確認する。部活のミーティングで帰れないこと。来週は一緒に帰れる日は帰ろうって書いてあるだけ。彼女からのメッセージとして、特におかしなところはないはずだ。
「……本当に付き合ってるんだ」
 夏月が真顔で太一を見つめてくる。
「やっと認めたな。俺は柊と付き合い始めた」
 ようやく幼馴染を納得させることができ、太一はほっと息を吐く。こうして手塚や夏月が太一の発言を疑うのは無理もなかった。そもそも太一は中学生の頃、八人の女子に告白して振られている。小学生の頃も含めると、振られた回数は二桁に達しているのだ。
 好きな人がすぐにできるのはおかしい。
 中学生の頃。告白に失敗する度に、夏月に言われ続けた。それでも太一は夏月の言葉に耳を貸さなかった。好きなものは好き。その気持ちを伝えることの何がいけないのか。
 太一が夏月の言っていた言葉の意味を知ったのは、高校生になってからだった。
 柊と出会った太一は、上手く自分の気持ちを表現できなくなっていた。いつもなら真っ先に好きという思いを告げていたはず。それなのに太一はなかなか行動に移せずにいた。
 理由ははっきりしていた。柊と話そうとする度に、胸の痛みが増していったから。
 経験したことがない事態に、太一は戸惑いを隠せなかった。今まで好きになった女子には決して感じなかった気持ち。どうして柊には感じるのだろうか。
 暫く考えた太一は、その時初めて夏月の言葉の意味に気づいた。
 今までの自分が上辺だけの好きで動いていたことに。そもそも行動と心が噛み合っていなかったのだ。振られるのも当然の結果だった。