紗雪と付き合うふりをして一週間が経った。未だに太一と紗雪の関係が偽りだということは、二人以外の誰にも知られていない。最初は嘘の関係なんて直ぐに見破られてしまうのではないかと思っていた。それでも見破られないのは、紗雪の頑張りがあったからなのかもしれない。毎朝一緒に登校して、お昼休みも二人でご飯を食べる。そして帰りも一緒に教室を出て、紗雪専用の空き教室へと足を運ぶ。常に一緒にいる二人の関係は、誰が見ても付き合っている関係に見えたはずだ。
 太一自身、最初は紗雪の提案に乗り気ではなかった。紗雪と常に一緒にいるということは、今まで太一が築いてきたものを壊さないといけなかったから。
 それでもこの一週間、紗雪と一緒にいてわかったことがあった。
 そもそもゼロ型と判明した時から、周囲との関係は瓦解していたのだと。
 大好きだった柊に振られ、幼馴染の夏月には話かけるなと伝えるしかなかった。クラスメイトや校内の生徒からは、ゼロ型人間と噂される日々。当然太一の心は日を追うごとに擦り減っていった。
 それでもそんな最悪な環境下で太一の心を満たしてくれたのは、紗雪の存在だった。紗雪と一緒にいるだけで、何故か安心できた。その安心は日を追うごとに高まっていき、擦り減った心を取り戻すまでになっている。
 紗雪は太一の置かれる状況が最初からわかっていたのかもしれない。だからこうして偽りの関係を始めてくれたわけで。
 でも太一にはまだわからないことがあった。
 どうして紗雪は付き合うふりをしてまで、太一に固執するのか。紗雪に付き合いたいと言われた時からわからなかった部分。それに紗雪は、自分の父親も関係しているボンドを否定したいと言っている。どうして否定したいのか。
 紗雪とはまだ一週間ちょっとの関係かもしれない。だけど太一にとっては、ただの一週間ではなかった。
 この一週間、紗雪に守られていた。自分の悩みを知ってくれる人が近くにいることが、どれだけ心強かったことか。だからこそ紗雪が言っていたように、お互い必要と思える関係になるために。紗雪に何かしてあげたいという思いは、日を追うごとに増していった。