声を荒げた父のことが理解できず、夏月は小首を傾げる。森川先生と父の異様な反応に、何かあるのではないかと思ってしまう。
「そ、それよりお父さんに聞きたいことがあったんだ」
 話題を変えようと、夏月は聞きたかったことを父に聞く。
「太一って本当にゼロ型なの?」
「夏月、何を言ってるんだ」
「何って……太一がゼロ型だって噂が学校で広まってて」
「そんな情報誰が?」
「私のクラスメイトの子に、太一のボンドが載っているサイトの画像が送られてきて。その画像では、太一のボンドはゼロ型だった」
 夏月の発言に父は暫く熟考していた。そして何か思いつた様子で、手に持っていたタブレット端末を動かし始める。おそらくポータルサイトを見ているのだと思った。
「夏月。今から森川先生と二人で話したいことがある。この話は夏月には聞かせられない話だ。部屋に戻ってなさい」
「何でよ。私にも教えてよ。太一はゼロ型――」
「部屋に行きなさい!」
 父の怒号に夏月は言葉が出てこなかった。
 初めて父に怒鳴られた。いつもは温厚な父が、こんなにも取り乱した姿を晒すなんて。
「……わかった。お茶だけ入れるね」
「ああ……ありがとう」
 再びキッチンに戻った夏月は急須に入っている使用済みの茶葉を捨て、新しい茶葉に入れ替える。目の前のカウンターテーブルに森川先生と父が座った。
 部屋の中が異様な空気に包まれる。夏月は気になって仕方がなかった。まず太一がゼロ型なのかどうか。本当はゼロ型について知りたかった。そのために太一のことを引き合いに出したのだけど、父はまるで夏月の話を初めて聞いたような態度を取っていた。
 堀風高校の血液検査の結果は父の研究データになる。それを知っていた夏月は太一の結果も当然知っていると思っていた。それなのに、どうして父は知らないと思わせる態度をとったのか。
 これから父と森川先生は二人で会話する。おそらくゼロ型について。そしてゼロ型である太一についての会話。その全てが夏月にとって喉から手が出るくらい欲しい情報だ。
 夏月は慣れた手つきで急須にお湯を注ぎ、二つの湯呑みにお茶を均等に入れた。そして父の分の茶托を敷いて、新しく玄米茶の入った湯呑みを置く。
「あ、ありがとう……夏月ちゃん」