言い終えて気持ちが楽になったのか、美帆はクマのぬいぐるみを枕元に置いた。
「私も夏姉に聞きたいことがあったんだ」
「何かな?」
「夏姉はお兄ちゃんのことが好きなんだよね? だから今日、私を呼んでくれたんだよね?」
 確信をもって聞いてくる美帆に、夏月は何て答えるべきかわからなかった。
 美帆の言う通り、太一のことが好きだ。好きだからこそ、太一の変化が気になって仕方がなかった。紗雪との関係、太一の変化。家族ぐるみの付き合いをしていると言っても一緒に暮らしていないのだから、夏月が知ることができる情報にも限界がある。だからこそ美帆を呼んだ。
「太一のことは好きだよ……だって幼馴染だし。それに家族のような関係だと思ってるから、放っておくことなんて私にはできない」
 美帆の頭を撫でた夏月は、自分が発した言葉に後悔を覚えた。
 どうして美帆の前でも本当の気持ちを隠してしまうのだろう。幼馴染という言葉がこんなにも便利だなんて思わなかった。太一との幼馴染という関係をどうにかしたいのに、今の自分は幼馴染という言葉に縋っている。そんな自分が本当に情けなかった。
「そっか。でも私は、お兄ちゃんには夏姉が一番だと思ってるから」
「美帆ちゃん……」
 美帆は満面の笑みをみせていた。偽りのない笑顔。そんな笑顔に夏月は救われた気がした。
「それじゃ、もう帰るね。そろそろ夕食作らないといけないから」
 美帆はベッドから立ち上がると、大きく伸びた。
「今日はありがとう」
 玄関口で改めて美帆にお礼を言った。
「夏姉の力になれるなら、いつでも協力するから」
 そう言い残して美帆は隣にある自分の家へと戻っていった。美帆を見送った夏月は玄関のドアを閉め、自分の部屋へと戻った。
 美帆との会話で夏月はさらに確信する。
 太一はやはり何か隠している。身内である美帆にも言っていないことがあるみたいだ。隠しているということを考えると、太一の隠していることはかなり重要なことだと夏月は思った。
 それに太一は美帆の作ったお弁当を残している。いつもの太一なら、美帆のお弁当は残さずに食べているはず。から揚げを抜かされたからといって、可愛い妹の手料理を食べない性格ではない。
 美帆の教えてくれた太一の変化を考えると、やはり気になることが二つ浮かび上がってくる。
 一つは紗雪と付き合ったこと。そしてもう一つはゼロ型について。