お互いの電子を共有する共有結合。正電荷を持つ陽イオンと、負電荷を持つ陰イオンの間のクーロン力による結合であるイオン結合だ。結合の仕方は違えど、イオンや原子は結合によって安定しようとする。ボンドではその安定が大切だと言われているのだ。
 原子中の価電子は二個で対になったときに安定する。リチウムは対になっていない価電子を一つ持っている。これを不対電子と言って、この数がボンドの後の数字になっている。だからリチウム型は2―1と表記される。
 一方で女性の2―1であるフッ素型。フッ素は周期表で見ると、第二周期に属する。だからボンドの先頭の数字は男性の時と変わらない。後の数字も同じで、フッ素型は不対電子を一個持っている。なのでフッ素型は2―1と表記されるようになった。
「ちょっと、太一!」
 思考を巡らせていた太一の耳に、聞き慣れた声が響く。視線を向けると、予想通りの人物が太一の前に立っていた。
「なんだよ、夏月」
 星野夏月(ほしのなつき)。家が隣同士の幼馴染で、太一や手塚と同じ中学出身。ショートカットの髪は夏月の特徴の一つで、明るくて活発な彼女に似合っていた。
「さっき手塚から聞いたんだけど……彼女できたって本当なの?」
 グイグイと顔を近づけて詰め寄ってくる夏月の肩を、太一は手で押し返す。
「本当だって。ついに俺にも念願の彼女ができたんだ」
「ふーん……騙されてんじゃないの?」
「おい、幼馴染のお前までそんなこと言うのか?」
「だって今まで太一はずっと振られてたじゃん。それなのに彼女ができるなんて……しかも相手は柊さんなんでしょ? 納得しようにも無理があるって」
 柊は女子の間でも人気があった。当の本人は人気があることを鼻にかける所もなく、分け隔てなく皆と関係を築いている。同性でも憧れる人がいるほどだ。そんな柊と付き合うことになった事実に納得できないという夏月の気持ちは、太一も理解できた。
「でも、そんな柊と俺は付き合うことになった。今日もこれから一緒に帰る約束を……っと来た来た」