たった一言だった。それでも夏月は太一の返答が嬉しかった。主語がなくても自分の言いたかったことを理解してくれていた。これも幼馴染だからなのかもしれない。
 同時に夏月は一つの確信を持った。
 太一はやはり嘘をついている。太一が自分の意志で紗雪と付き合ったとは思えなかった。
 絶対に何かあるはず。太一が嘘をつかないといけない理由が。
 見えない答えを求めて、夏月は行動を起こすことを決意した。

 家に帰った夏月は、自分よりも太一のことを知っている人を呼び出した。
「夏姉、来たよ」
 そう言って家に上がり込んできたのは、太一の妹である美帆。太一の変化を知るなら、身内である美帆から聞きだすのが最適だと思った。
「美帆ちゃん。今日はごめんね」
「大丈夫。私も夏姉に協力したいと思ってるから」
 玄関口で靴を脱いだ美帆は慣れたように階段を上っていき、夏月の部屋に入っていく。その後を追うように、夏月も自室へと入った。
「夏姉の部屋って久しぶり」
「そうだね。美帆ちゃんが小学生の時に来てくれたのが最後だっけ?」
 夏月が中学二年生の時。太一と美帆が夏月の誕生日を祝うために家に来てくれた。夏月にとって忘れられない誕生日だ。
「あっ、お兄ちゃんが夏姉にプレゼントしたクマのぬいぐるみ」
 美帆は枕元に置いてあったクマのぬいぐるみに手を伸ばすと、頭を撫でた。どこかクマのぬいぐるみも嬉しそうな表情をしているように見える。
「今でも私の大切な宝物なんだ」
 クマのぬいぐるみは、太一がくれた初めてのプレゼント。夏月にとってなくてはならない存在だ。
「それで、夏姉が聞きたいことって?」
 ベッドに腰を下ろした美帆は、足をばたつかせて夏月に視線を向ける。
「太一のことなんだけど」
「お兄ちゃん?」
 美帆に頷いた夏月は本題へと入る。
「最近の太一、何か変なんだよね。いつもの太一じゃないというか……」
「私も夏姉と一緒。特に彼女ができてからのお兄ちゃんは、何か変」
 美帆も同じことを思っていた。その事実にほっとする。
「美帆ちゃん知ってたんだね。太一に彼女ができたこと」
「うん。だって先週の金曜日。学校から帰ってきたお兄ちゃん、やけにニヤついてて。正直気持ち悪かったし、何か良いことがあったってすぐにわかった」
 美帆は少し寂しそうな表情で語るとゆっくりベッドに倒れ込み、話を続けた。