「森川さんってやっぱり変だよね」
「月岡はあのゼロ型だぜ。結婚できないって言われてるのに付き合うなんて」
「天才にはある意味、興味を持たれるのかもしれない。森川さんも少し変なとこあるし」
 様々な憶測が飛び交う中、夏月はただ聞いていることしかできなかった。口を挟むと絶対に言われることがあると、夏月自身わかっていたから。
 太一もそれをわかっているのだ。夏月がボンドに関することに首を突っ込むと、必ず言われることがあると。実際に昨日、有香に言われてしまったのでなおさらだ。
 さっきの太一の発言もそう。夏月の知っている太一だからこそ出た言葉。そういう優しさがあるからこそ、太一を好きになったのだ。
 夏月の視線の先では太一が紗雪と会話を交わしていた。一部のクラスメイトがそんな二人を睥睨するように見つめている。その光景にふと違和感を覚えた。
 どうして太一は、紗雪と会話するのだろうか。
 付き合っているから? 違う。
 太一は相手のことを考えられる優しさを持っている。現に太一は柊と別れた。それは柊に迷惑をかけないため。太一がゼロ型ということで、柊が色々と言われるのを避けたかったから。太一はだから柊と別れたはず。
 それなら今、目の前で繰り広げられている光景は明らかにおかしい。太一が紗雪と話すことは、紗雪に迷惑をかけることになるはず。太一なら迷惑をかけないことを一番に考えるはずなのに。
 何かあるのではないかと、夏月は疑わずにはいられなかった。
 幼馴染の感と言って、信じる人がいるだろうか。それでも小さい頃からずっと紡いできた太一との時間があるからこそ、確信をもって言えた。
 今の太一の行動は明らかにおかしいと。
「太一!」
 クラスメイトの視線が一斉に夏月に注がれた。喧騒が止み、静寂が教室内を包み込む。太一も紗雪との会話をやめて、夏月の方に視線を向けた。しっかりとした視線に目をそらしたくなったけど、今だけは太一から目をそらすわけにはいかなかった。
 幼馴染として太一を信じているからこそ、聞かないといけないことがある。
「どうして嘘つくの?」
「……嘘じゃないよ」
 そう告げた太一は、紗雪とまた会話を始めた。太一の声を皮切りに、静まりかえっていた教室内が再び喧騒に包まれる。