何度注意をしても太一はから返事をするだけで、自分の行動を直そうとはしなかった。忠告しても、数週間後には好きな女の子を見つけてきて告白。その行動はもはやずっと変わらないと夏月は思っていた。
 しかし高校生になって間もない頃、太一は急に変わったのだ。
「好きな人ができた」
 そう言われた時は、またいつものことが起こると思った。すぐ告白をして振られる。そして落ち込む太一を慰める。そんな当たり前の未来がやってくることを、夏月は信じて疑わなかった。
 でも太一は告白をすぐにすることはなかった。ずっと静観して動こうとしなかった。
 どうして動かないのだろう。
 太一のいつもと違う行動に夏月は面を食らった。思い描いていた当たり前の未来がぼやけはじめる。どこかで安心していたのかもしれない。太一と付き合う女性はいないと。昔の太一のままなら、絶対に付き合うことはないと言い切る自信があったから。
 でも太一は変わった。好きになった子のことを本気で考え始めたのだ。
自分が言っていた意味をようやく理解してくれた。最初はほっとした気持ちを抱いた。しかしそんな気持ちはすぐに消えてしまった。太一を変えたのは誰なのか。そのことが気になりだした。
 相手はすぐにわかった。柊綾乃。学年でもトップクラスの美少女として知られている、有名人。太一の視線を見るだけで、好きな相手が柊だと知ることができた。小さい頃からずっと隣にいたら嫌でもわかってしまう。
 でもどうして柊に気持ちを伝えないのか。
 普段感じることのない不安を、夏月は抱き始めていた。
 月日は流れ、高校二年生になって一週間が経ったある日。太一の親友で小学生の頃からの付き合いである手塚から、衝撃的な話を聞いた。
「柊さんと太一、付き合うことになったらしい」
 その話を聞いた瞬間、夏月の心中を徘徊していた不安が痛みとなって襲いかかってきた。
 ずっと近くにいたから気づかなかったのかもしれない。でもその関係が当たり前だった。物心ついた時から、太一は夏月の隣にいたのだから。
 最初は信じられなかった。だから夏月は太一の元へ真っ先に駆け寄った。そして太一から本音を聞きだした。結果は手塚の言う通り。太一は柊と付き合うことになった。その時、夏月は初めて自分が馬鹿だったと自覚した。