誰もいない自室で、星野夏月は物思いにふけっていた。今日学校で起こった出来事が、夏月の頭の中で徘徊している。
 どうして太一は紗雪と付き合うようになったのか。二人が付き合っているという事実に、夏月は納得がいかなかった。太一は高校生になってから変わったはず。それなのにどうして振られた翌日に新しい彼女を作るのか。変わったはずの太一を知っているからこそ、余計に理解に苦しむ。
 夏月はベッドに横になると、お気に入りのクマのぬいぐるみを抱え、顔を埋めた。ほわほわとした感触が気持ちを落ち着かせる。
 本来、他人の恋路なんて口を挟むべきことじゃないのかもしれない。でも口を挟まずにはいられなかった。夏月にとって太一は大切な人なのだから。

 太一と初めて会ったのは近所の公園だった。最初の印象は、家が隣でよく一緒に公園で遊ぶ友達。それ以上でもそれ以下でもない存在だった。それでも小さい頃から一緒に遊び、家族ぐるみの付き合いをしていたからなのかもしれない。中学校に上がる頃には、夏月の中で太一は特別な友達に変わっていった。
幼馴染という関係を意識し始めたのは、中学二年生の頃。
「二人って付き合ってるの?」
 仲のよかった友達に質問された夏月は、当然否定した。
「付き合ってないって。太一は幼馴染なだけ」
 実際に太一とは付き合っていなかったし、そんな関係に発展するとは思ってもみなかった。だって太一は幼馴染。普通の友達とは少し違うだけ。そう夏月は思っていた。
 太一も夏月に対して、恋愛対象として好きということは思っていなかったと思う。小学生の頃から中学生までの間、太一は気になった女の子がいるとすぐに告白をしていた。自分が興味を持った女の子に好きな気持ちを伝え、そして振られる。その工程を何度も繰り返していた太一は、チャラ男と言われるくらい同学年の間でも噂になっていた。
 もし太一が夏月のことを好きだったら、必ず告白してきたはずだ。それなのに太一が何も言ってこないということは。既に答えは出ているようなものだった。
 中学二年生の頃、そんな太一と毎日一緒に登校していた夏月は、振られて落ち込む太一の姿をみるたびに、叱責していた。
 ――好きな人がすぐにできるのはおかしい。